「飛行機、観たことないでしょう?」
「ありますよ、飛行機ぐらい」
「空を飛んでる奴だよ?」
「ああ、こうなってからはないですね」
こんな会話が交わされたという。
首が動かなくて上を向けなくなった男性がいて、そのときの治療の話を、気功整体を受けながら聞いていた。
「それじゃあ、上を向いて歩けないですね。涙、こぼれちゃうなあ」
むかしの歌を引用しつつギャグを飛ばすが、実際、車の運転などたいへんなのだろうと気の毒にもなる。少しずつ回復に向かっているらしく、特別深刻というわけではなさそうだが。
花曇りが続き、きのうは久しぶりに青く晴れた空を見上げた。
会ったこともない彼は、まだ空を見上げることができないのかなあと考える。そして首を動かさず、目玉だけぎょろりと動かし空を見上げてみた。
すると、まったく違っていて驚いた。首を上に向けて空を見上げたときの晴れ晴れとした気持ちには、到底なれなかった。
首をぐるぐると回し、もう一度思いっきり首を上に向けて空を見上げた。これまで気づかずにいた空を見上げられることの幸せを思った。
きのうの空。飛行船みたいな雲が、浮かんでいました。
うろこ雲ともちょっと違う、波模様のような雲も広がって。
どんどん広がって、次第に薄まっていきました。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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