ウー・ミンゾンという名前がインパクトがありすぎて、そう感じる自分はやはり根っからの日本人なのだと実感する。
外国の人に対して差別意識など持っていないとは思うのだけれど、違いというものを突きつけられるとき、ハッとするのだ。
解説の温水ゆかりは、中島京子を「異文化のマッサージ師」とかいている。異文化を持つ人に対して”距離”を感じたときに、それをほぐしていくのだと。
長編『桐畑家の縁談』は、露子視点で語られるが、台湾の青年ウー・ミンゾンと結婚するのは妹の佳子である。露子は、27歳、無職。妹の部屋に居候している。
真面目でおくてだったはずの妹が、突然、結婚することにしたと言い、露子は混乱する。
ウー・ミンゾンは、毎日アイシテルと言ってくれるのだという。
愛想のない妹が、夜遅くまで黙々と働く妹が、六本木に行きたい店など一軒もないと憮然として答えていた妹が、毎日「アイシテル」と言ってもらいたがっているなんて、いったい誰にわかるだろうか。
とは言え、露子は医者の卵である恋人からプロポーズされていて、結婚を焦っているわけでもない。
露子は「渡辺さんの奥さん」と呼ばれる自分を想像してみた。
それは露子には「がまんならない」ほどのものでもなかったが、「できれば耐えたくない」ようなものだ。もし、「渡辺さんの奥さん」になってしまうとしたら、自分はきっと上手にそれを演じることだろうと露子は思った。そうしながら一方でそれ以外の現実を獲得することができなかった自分を軽蔑して、人生を「やり過ごす」ように生きることになるだろう。
小説は、ユーモラスにゆったりと進んでいく。渡辺との恋愛とむかしの失恋に加え、イラストレーターとしての露子。ウー・ミンゾンと佳子の出会いから結婚まで。国際結婚を受け入れられないのに反対もできない父親と、できれば娘たちの結婚を自慢話にしたい母親。
人間、生きてりゃ迷います。迷って選んでもまちがえます。それで、よせばいいのに後悔します。やっかいなもんです。まあ、やっかいですが、楽しまれることです。
露子は、見知らぬ老人の言葉を反芻するのだった。
「姫りんごの木の下で」を改題とありました。桐畑家の庭の姫りんごと家族の結びつきをイメージした表紙でしょうか。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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