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はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々

東京の紫陽花

東京は、紫陽花が咲いていた。

「もう?」

と驚き、半月ほどタイムスリップしたような気分になる。

そして我に返り、ああ、やっぱり違う土地なのだな、と実感する。

 

きのうは、91歳になった父が3週間ほどの治療入院に入ったので、見舞いに行った。自覚症状はないので、のんびり休養するといった風情で、洗濯も自分でできるから心配いらないという。弟と3人ひとしきり他愛ない話をし帰ってきた。

 

病院から母に電話し、これから行くと告げると、何か返事を渋っている。

「今日は、ゆっくり休みたい」という。

だから、遠慮してくれないかということらしい。

腰痛が持病の85歳。買い物でもと思ったのだが、今はどこでも配達してくれるし、徒歩1分の場所にコンビニもある。

「たまに、電話してくれればいいから。その方がいい」

どうやら、独りを謳歌したいようである。

弟とも相談し、母の気持ちを尊重することにした。

年老いてたがいに耳が遠くなった夫婦には、行き違いも多くなり、些細なことの積み重ねでストレスも溜まっていたのだろう。

 

家族の距離は、その家族ごとにまったく違う。

結婚し、もうひとつの家族ができて、その違いはよくわかっているつもりだ。

「会わずにいても、元気でいてくれれば、それでいい」

母は基本そういうスタンスで、だからたぶんわたしも、子どもたちに対してそう思っているところがある。冷たいとも他人行儀とも見えるかも知れない。

今読んでいる、三浦しをんの『あの家に暮らす四人の女』にある。

他人と同居して雪乃が知ったのは、家族とは本当にそれぞれだということだ。玄関に入ったときのにおいが家ごとにちがうように、家族の距離や関係や習慣もまったく異なる。

(中略)

家族を構成する人員がちがうのだから、当然ながらできあがる家族の形も無数に存在するのだった。

無数に存在するなかのひとつの家族を形成していた頃のいろいろは、今もきっとわたしのなかに残っている。父と弟と会い、母と話し、紫陽花が花の色を変えていくようにいくつもの記憶が静かに流れていった。

やわらかなブルー。ガクアジサイの中心の蕾は、京飴のようですね。

猿楽町の小学校前で。

庭の紫陽花は、まだ開き始めたばかりです。

COMMENT

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  1. ぱす より:

    お父様のご入院は、お母さまの一時の骨休めの時なのかも知れませんね。
    その思いをさえさんは、尊重されたのですね。
    「またにして欲しい」と言えるのも、家族だからこそですね。

    私も、同じようなことがありますよ。
    お彼岸のこと。父の仏壇に参りたいと思っていましたが、遠いしお墓からだと回り道になるからと、
    墓参りだけでよいと母が言ってきました。それは、私が決めること・・・とは思いましたが、
    私の足労も思ってはいると思いますが、訪ねてこられると、片付けやもてなしや、母は考えることになるので、面倒なのかなとも思いました。
    元々、近くならふらっと立ち寄り、気兼ねなく迎えられるスタイルが定着してたと思うのですが・・・。しんどい気持ちも、よくわかるので、母の言う通りにしました。

    紫陽花が美しい季節になりました。

  2. さえ より:

    >ぱすさん
    ほんとだ。「またにして欲しい」って言えるのも、家族だからなんですよね。
    ぱすさんもありましたか。
    お父さまへの気持ちと、お母さまの言葉と、どちらも考えて、ぱすさんもお母さまの方を尊重されたんですね。
    近くなら、また違ったのかもしれませんね。
    紫陽花、こちらはまだまだこれからです。
    来週も東京に行く予定なので、2度楽しめそうです♩

PROFILE

プロフィール
水月

随筆屋。

Webライター。

1962年東京生まれ。

2000年に山梨県北杜市に移住。

2012年から随筆をかき始める。

妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。



『地球の歩き方』北杜・山梨ブログ特派員

 

*このサイトの文章および写真を、無断で使用することを禁じます。

 

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