「おやすみなさい」という挨拶が好きだ。
挨拶のなかでも、とびきり優しく温かく感じる。
語源は、宿でお客に「ゆっくりお休みになってください」と挨拶していたところから来ているという。「休みなさい」という命令形ではなく、ていねい相手を思いやる言葉なのだった。
英語では「good night」だし、イタリアでは「buona notte(ボナノッテ)」、フランスでは「bonne nuit(ボンニュイ)」どれも、「よい夜を」だ。
そういう意味では「good night」も「good morning」も相手を思いやる言葉だが、ゆっくり休んでねという「おやすみなさい」には特別な親密さを感じる。
ベッドに入る直前に居合わせるというシチュエーションは、やはり家族である場合が最も多いからかも知れない。
だが、7月に行ったホーチミンで、こんなことがあった。
「Hello! How are you?」
飲みに出かけたホテルのスカイラウンジで、アメリカ人だろうか。スタッフの男性が、夫にそう声をかけた。
直訳すると「やあ、調子はどうだい?」となるが、まあ「こんにちは」や「いらっしゃいませ」の代わりに言ったのだろう。返事を軽く返し、オーダーした夫が穏やかな笑顔で言った。
「ホッとするなあ。ベトナムでのやりとりでは、How are you? って言い合ったりしないから」
外国人が4人いる会社では、日本でありながら「How are you?」のように「調子はどう?」「週末どうしてた?」などと朝の挨拶時に言葉を交わすことも多いらしい。
日本ではあまり踏みこむことのない領域に、朝の挨拶でするりと入りこんでしまう。生活習慣の違いは、距離の取り方の違いとなり、そのまま人としての根っこである感覚の違いとなるのだろう。
「おやすみなさい」に感じる親密さは、日本人の閉鎖した感覚のなかで感じるものなのだろうか。そう考えると同時に、会社やサークルで「最近元気にしてた?」とか「暑いけどよく眠れた?」と、おはようの挨拶のときにちょっとだけ踏み込んで訊いてみようと思った。
飲みに行った『ホテルカラベル』のスカイラウンジ『サイゴンサイゴン』から見下ろした、ホーチミンの街。
カラフルにライトアップした『ホテルコンチネンタルサイゴン』
マティーニのお味は? うーん、マティーニの味がしない(笑)
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
*このサイトの文章および写真を、無断で使用することを禁じます。
管理人が承認するまで画面には反映されません。