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はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々

ポケットのなか、秘密の言葉をささやくもの

小川洋子の『最果てアーケード』(講談社文庫)を、ベッドでぱらぱらと捲っていた。ドアノブ専門店の話が好きで、たまに読みたくなる連作短編集だ。

そうして読み返していると、これまで気づかなかった光る言葉を不意に見つけるときがあって、それがまた楽しい。

うれしさのあまり私は石鹸をスカートのポケットに忍ばせ、アーケードの中を駆け回った。心配していた父がちゃんと帰ってきたうえに、こんなに美しいものの持ち主になったのだから、じっとしてなどいられない気分だった。”輪っか屋”の前から一直線に駆け抜け、「おや、元気一杯だね」などと話し掛けてくるお客さんの声を振り切り、中庭を半周してまた”輪っか屋”まで戻ってくる。これを幾度となく繰り返した。その間中石鹸は、ポケットの中でカサコソと私だけに向かって秘密の言葉をささやいていた。

〈私〉は、父親に貰った薄紫色の石鹸を「この世で最初に目にした最も美しいもの」だと思い、だからこそポケットのなかの石鹸は、〈私〉だけに秘密の言葉をささやくのだ。

あ、この感覚、なつかしい。と、ここを読み、思い出した。

 

もう十年以上前になるだろうか。ちょっと緊張する仕事に向かう途中、上野公園を通ると陶器市がやっていて、時間調整も兼ねて観て歩いた。そこで陶器のおろし器を見つけ、ちょうど欲しいと思っていた大きさや雰囲気に魅かれ(茄子の形をしていた)2つ購入した。重いものではないし、鞄にすっぽり入る。

その茄子のおろし器を鞄に入れて歩いていたときの感じと、〈私〉が石鹸をポケットに忍ばせている感じがとても似ていて思い出した。

ポケットや鞄のなかの秘密はやわらかな熱を放ち、持ち主にだけわかる秘密の言葉をささやく。元気や勇気さえ、与えてくれたりするのである。

CIMG2043『最果てアーケード』とブックレストのたこよん。

CIMG2046すっかり使いこんだおろし器です。ニンニクと生姜用に重宝しています。

COMMENT

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  1. 悠里 より:

    私たちの子供の頃、石けんは白い固形がほとんどでしたね。そして、匂いも俗に言うシャボンの匂い。今は多種多様、でも、時々あの頃のシャボンの匂いが、無性に懐かしくなります。
    娘の家族は肌が敏感で、私も一緒に…手づくり石けん教室…に通っています。アロマテラピー兼ねていて、好みのオイルが選べます。私的には、やっぱりシャボンの匂いが、一番かな?

    茄子の卸し器、かわいい~‼
    ブックレストのタコさんの足、のびのびですね。私のブックレストはネコちゃんで、がに股です。

    • さえ より:

      悠里さん
      そうですね~今はいろいろな石鹸ありますね。うちにも今ブルーベリーの色と香りの石鹸があります。
      それ、手作り石鹸なんですよ。
      最近、身体のために手作り石鹸を選ぶ人も多いから、売っている場所も増えましたね。
      好みのオイルで自分で作った石鹸、素敵♡シャボンの匂い、いいですよね~
      おろし器、可愛いでしょう?丈夫だし重宝しています。
      悠里さんのブックレストは猫ちゃんなんですね。

PROFILE

プロフィール
水月 さえ

随筆屋。

1962年東京生まれ。

2000年に山梨県北杜市に移住。

夫が営む広告会社で経理を担当。

2012年から随筆をかき始める。

 

妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。

 

『地球の歩き方』北杜・山梨ブログ特派員

 

随筆かきます。

 

依頼はメールフォームからお願いします。

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