旅行から帰ってきたら、居間に置いたままにしていた柿が熟していた。
枯露柿用の柿をいただいた農家さんに教わった「ずくし」になっているのだと、すぐに判った。
「ずくし、できてるー」
喜ぶわたしの声を聞き、夫は渋柿でも食べたような顔をした。やわらかい柿が、むかしから苦手なのだという。
ところが今年、それを聞きつけた薪割り仲間が、やたらと柿をくださる。
「かたい柿が好きだって聞いたから、遠慮せずにどうぞ」
「これは奈良の柿。これはご近所さんにいただいた柿。美味しいよ」
「きのう持ってきたのに留守だったから、柿、やわらかくなっちゃったよ」
夫は柿は嫌いではないが、好きというほどではない。やわらくなったら、むしろ苦手だと言っているのだ。彼らは、そんな夫の弱点というほどのこともない弱みを知り、ちょっとした意地悪を楽しんでいる訳だ。
食卓で柿を剥くたびに、夫は言い訳のように言っていた。
「だからさ、かたい柿なら、まだ食べられるって言っただけなんだよ」
今年は、そんなこんなで柿の当たり年。
まだかたい富有柿も、初めて吊るした枯露柿も、奈良の柿も、ご近所さんの庭の柿も、たくさん食べた。そして、ずくしを今楽しんでいる。
スプーンですくって、夫のヨーグルトにずくしを入れると、にらまれた。
「えーっ、こんなに入れたの?」
「だって、ふたりしかいないんだから、協力して食べないと」
そう言いながらも、彼は美味しそうに食べている。
もしかしたら、夫のやわらかき柿への苦手意識は解消されたのかも知れない。しかし彼は、意地でも認めないだろう。「やわらかい柿、こわい」と言いつつ食べ続けるに決まっている。それもいい。きっと来年もまた、柿の当たり年になる。
「かたい柿が好きだって聞いたから」
そう言って笑いながら、また彼らが持ってきてくれるだろう。
薪割り仲間の皆さん、美味しい柿をごちそうさま。どうぞ来年もよろしく。
しわしわになって、いかにもやわらかそう。
おー、きれいに熟してる。
ヨーグルトに入れてみました。さっぱりとした甘さです。
ひと晩降った雨で、八ヶ岳はずいぶんと白くなりました。
これから、ほんとうの冬がやってきます。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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