2月が逃げていった。
だからなのか何なのか、突然「手」がゲシュタルト崩壊を始めた。
月末事務。パソコンのキーを打つ指。マウスをクリックする仕草。ボールペンを持つ手。郵便物の封を閉じる作業。
それらをこなす手はぼんやりと見るともなしに見ていたのだが、キッチンに立ったとき、崩壊は起こった。
ワカサギにまぶす、小麦粉がついた両手。それを見てハッとした。
「ああ、手ってなんて不思議なものなんだろう」
不思議な形。不思議な動き。いつもは感じない何かを掴むときの感触さえ、不思議に思えてくる。自分の身体から乖離していくような感覚に陥る。
その手のまま、180℃に煮たつ油にワカサギを入れる。
ジュッという音を聞きながら、タイマーのスイッチを押し、流水で手を洗った。流れる水を見ていたら、次第に崩壊はおさまってきた。
毎日見ているものが、突然違うものに見えてくる瞬間が、わたしにはある。
たぶん、ひとりの人間が見渡すには世界は大き過ぎて、見えていない部分が数え切れないほどあることが不安で、だから見えているものでさえ、不確かなもののように思えてしまうのだろう。
「ふたしか」
つぶやくと、今日も明日もすべてが不確かなことのように思えてくる。
「たしか」
だがそうつぶやくと、今日も明日もたいていのことは確かなことのようにも思えてくるのだ。
週末にご近所さんにいただいたワカサギです。1,500匹釣ったそうです。
日曜日には天麩羅にしました。
ふきのとうと一緒に、大人の天麩羅。
そして、仕事の合間に南蛮漬けを作りました。レモンたっぷり風味です。って、この皿に盛った20倍はある。毎日食べよっと。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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