グレープフルーツといえば、江國香織の風変わりな小説『ホテルカクタス』を思い出す。
きゅうりと数字の2と帽子の3人がホテルカクタスという名の古びた石造りのアパートで繰り広げる物語だ。
きゅうりはビールをぐいぐい飲み、帽子はウイスキーを好むが、酒が飲めない数字の2が飲むのは、いつもグレープフルーツジュースだった。
2は言う。
「僕がグレープフルーツジュースを飲むのには理由があるんだ。グレープフルーツなら一年中いつでもあることがわかっているからさ。安心なんだ。これが桃であってごらんよ。秋にはもう飲めなくなってしまう。果物屋にいけばいつでも手に入るものじゃなきゃだめなんだ」
しかし、苺をお裾分けしようと訪ねたたきゅうりには、理解できない。
「だって、きみはいま、現にいちごを手に入れてるじゃないか」
そう反論してみましたが、無駄でした。2は弱々しく首をふり、
「いつでも手に入る、というところが大事なんだ。きみにはきっとわからないよ」
と、言うのでした。
2は、真面目で几帳面で神経質で、他人に打ち解けるのに時間がかかり、何ごとにも疑心暗鬼になりやすく、忍耐強いが、辛いことがあるとすぐに頭やお腹が痛くなる性格だ。
だからこそ、いつでもあるグレープフルーツに安心を見ているのだ。
コロナ禍で、いつでもあるものがなくなることだってあると知ったが、2は、今頃どうしているだろう。
ハーブの店「camino natural Lab」で、黄色く丸いものは幸せの象徴なのだと聞いた。
数字の2も、日々グレープフルーツジュースを飲みながら、心穏やかに暮らしていてくれたらいいのだが。
そして、2がグレープフルーツジュースしか飲まないところが大好きだった、東京で暮らす末娘も。
まんまるですねえ。このところ柑橘類を外していましたが、これは美味しかった。
ルビー・マーシュという品種でした。
朝食後に、ヨーグルトと一緒にいただいています。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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