祝杯を挙げた。
人間ドックの詳しい結果が出て、プリン体とか塩分とか、年相応に気をつけましょうというのは、夫婦ともにあったが特別な問題はなかった。
イタリア語やスペイン語で「乾杯」は「Salute」サルーテ。
「健康を祈って」という意味を持つ言葉だそうだ。
「サルーテ!」と乾杯したが、しかし暖簾をくぐったのは日本酒が美味しい店。神保町駅すぐそばの『無花果』だ。つい先日、夫とふたりでけっこう遅い時間に夕飯が食べられる呑み屋を探し、ふらふらと歩いていて見つけた店だった。
そのときは、硝子越しにカウンターを覗いたら、けっこういっぱいだった。どうしようかとふたり顔を見合わせたときに、硝子の戸を開けて「どうぞー」ととても感じよく声をかけてくれた。じゃあ、入ろうかということになる。こういうのってタイミングと縁だなと思ったのを覚えている。とってもいい店だったので、また行こうということになったのだ。
ビールも好きだが、日本酒も好きだ。
「GO!GO!の今年は、日本酒ソムリエになるぞー」
そんなジョークを飛ばしながら、ふたり違った酒をオーダーした。これは旨みが濃い、こっちはすっきり尖っているなんて、素人なりにあれやこれや言いながら吞むのもまた楽し。
「次は、何にする?」なんて言いつつ、この時点でもう「美味しい」ということしかわからなくなっている。まず日本酒ソムリエには、なれないだろう。
お腹も膨れ、酔いも気持ちよくまわった頃だった。お店の人が、香ばしく焼いた空豆ときびなごののった皿をテーブルに置いた。注文はしていない。
「よかったら、どうぞ」
どうやら、前回カウンターで呑んだときに、夫がきびなごが好物だと言ったのを覚えてくれていたらしい。うれしいサプライズだ。タイミングと縁は、こうして何度かの時間を重ね、店と人、人と人とのつながりになっていく。
「きびなごって魚、むかし、きみに教わったんだよね。知らなかったもん」
と、怪しくなった呂律を駆使して、わたし。
「そうそう。九州で初めて食べて、それが美味かったんだ」と、夫。
そんな話をしながら、さらにほろほろと酔っていった。日本酒って、いいな。
けど大切なのは、ほどほどに。ということで、健康を祈って、サルーテ!
「寳剱」という広島のお酒です。旨みは濃いけどすっきりな純米吟醸。
豚肉のパクチー巻きです。スイートチリソースとレモンで。
昆布〆鶏もも焼きには、その昆布を素揚げにしたものが添えてありました。
いぶりがっこのクリームチーズ仕込み。まさに日本酒のあてですね。
サービスしてくださった空豆ときびなごです。うれしい。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
*このサイトの文章および写真を、無断で使用することを禁じます。
管理人が承認するまで画面には反映されません。