予約が入った。
灰である。薪ストーブを燃やしたときに出る灰を、今年も分けて欲しい。そう言って近所の農家さんがやってきた。手には、立派な大根を一本。
「そろそろかなって抜いてみたら、けっこう大きくなってたから」
うれしい。葉っぱがふさふさとついている大根だ。大根葉の炒め物が作れる。夫の好物なのだ。
「秋刀魚を食べようよ。たっぷりの大根おろしと一緒に」
その夫の提案で、さっそく秋刀魚を焼いた。大根たっぷりの根菜汁も煮た。翌日は、葉っぱを胡麻油炒めに、身と皮を使ったナンプラー炒めも作った。
魚じゃないけれど、頭からしっぽまで食べられます、って感じ。明野で採れる浅尾大根は、ほんとうに美味しい。
越してきてすぐの頃、浅尾地区で採れる大根は、茅が岳の火山灰が堆積したキメの細かい赤土の土壌が作り出す、特別な大根だと聞いた。明野の日照時間は日本一。大根はその太陽を思う存分に浴び、赤土のなかぐんぐん根を伸ばしていく。
ふと、粘土質の赤土のなか、伸びていくのはたいへんだろうなと考える。
シシトウがストレスによって辛くなるという話を聞いたからかも知れない。たまに辛いシシトウに当たる原因のひとつは、猛暑や水不足によるストレスと考えられているそうだ。
「いやいや。それは、ないな」と打ち消す。
浅尾大根は、甘みも辛みもちょうどよく、サラダにしても煮物にしても美味しい。ストレスなどとは縁遠いすっきりとした味だ。うーむ。もしかしたらそれって、ストレスに負けない根性があるってことかも。
「そう言えば、もうすぐ大根祭りだよね」
「ああ、もう来週か」
明野町では、毎年11月3日文化の日『浅尾大根祭り』が開催される。年に一度だけ明野を走る農道が渋滞すると言われている日だ。子ども達も中学生くらいまでは楽しみにしていたっけ。浅尾大根の旬は、これからだ。
葉っぱが立派です。身が小さく見えますが、けっこう長いんです。
大根おろしが、瑞々しい。旬の秋刀魚は、脂がのっていました。
大根の皮の千切りと身の拍子切りを焼き豚と炒めて。ニンニクナンプラー味。
根菜汁にもたっぷり入れました。すぐにやわらかくなりました。
葉っぱは、小女子と胡麻油で炒めて醤油とみりんで味つけして、朝ご飯に。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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