小説を読むのは大好きだが、そこにある出来事に影響され過ぎないようにしようとは思っている。だが、料理は別だ。大いに影響されようと手招きしている。
読んだばかりの『そして、バトンは渡された』には、料理小説、いや食卓小説といってもいいほど食事のシーンが数多く出てきた。
夕飯はきのこご飯と鮭のホイル焼きと味噌汁だ。秋の食材はいい香りがするものが多い。私は大きく息を吸ってから、「いただきます」と手を合わせた。
「合唱祭、いつまで続くの? 優子ちゃんは部屋にこもりがちになるし、ノックしても返事しないいし。早く終わらないかなあ」
森宮さんはきのこご飯に細かく刻んだ葱を振りかけながら言った。
血の繋がらない父親である森宮さんは、合唱祭で伴奏をするためにピアノの練習にかかりっきりの優子がかまってくれず淋しいのだ。しかし文句を言いながらもちゃんと季節の食材で食卓を整えている。
「鮭のホイル焼き、作ろうかな。夕飯にご飯は食べないから、きのこご飯の代わりにホイル焼きにきのこをたっぷり入れよう」
それでこんなふうに、我が家の夕飯は献立が決まったりする。
きのことあげとひじきが入ったご飯。具材全部に優しいだしの味が染みて、米粒からもきのこの香りが漂う。そんな中にねぎのシャキシャキとした新鮮な歯触りが、いいアクセントになっている。私もねぎをたっぷりとご飯に載せた。
「ねぎをかけると、いくらでもご飯食べられそう。よし。さっさと食べて、寝る前にもう少しピアノ練習しよっと」
そして、ふたたび読み返し、こんなふうに秋を感じるのっていいな。もっと丁寧に暮らしたいな、などと思ったりもする。
それから年が明け、森宮さんが優子の大学受験の朝に作ったのは、生姜ご飯と具だくさんの味噌汁だった。
「あ、おいしい」
ピリッとした生姜は、だしと一緒になるとじんわり優しい味になる。ほのかな風味が付いた生姜ご飯は目覚めたばかりの胃に静かに収まっていく。
「優子ちゃん、普段どおりの実力出せば絶対大丈夫だから」
「さて次は、寒い朝に新米で生姜ご飯を炊こうかな」
小説のなかの料理たちは、我が家の食卓に、季節の香りやぬくもりや、いろいろなものを運んでくる。
鮭ときのこのホイル焼き。朝採りシメジと舞茸と玉葱、バターをたっぷり入れてフライパンで焼きました。
冬野菜、根菜が美味しくなる季節になりましたね。
筑前煮があると、朝食がにぎやかになります。栄養もたっぷり。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
*このサイトの文章および写真を、無断で使用することを禁じます。
管理人が承認するまで画面には反映されません。