瀬尾まい子の『そして、バトンは渡された』には、食べたくなるような料理がたくさん登場する。
秋の香りいっぱいの料理とか、そして餃子とか。
森宮さんは、優子がクラスメイトたちと険悪な雰囲気になっていることを知り、餃子を作る。
「おいしいし、スタミナ付くし。餃子は最高の食べ物だよな。これさえ食べれば、墨田も矢橋も矢守も撃退できるだろ」
「だから、矢守さんは関係ないし。それに、ばててるから文句言われてるわけでもないしね」
優子は、森宮さんの行動に呆れながらも餃子を食べる。森宮さんは、食べ物について語るのが好きだ。
「餃子でも春巻きでも包む料理って、結局は空気感が大事なんだよな」
餃子は三皿目に突入した。もう三十個は食べてるだろうか。森宮さんはそれでもまだおいしそうに餃子を口にしながら話し出した。
「餃子の空気感って、何それ。酔ってるの?」
「まさか。娘がにんにく臭くてみんなから避けられる事態が起きようとしてるのに、酔えるわけないだろう。餃子でも春巻きでも、ぎっしり中身を入れて作るより、ちょっと隙間があるほうが空気が含まれて食べやすいってこと」
ここを読み、ほほうと感心した。
わたしの餃子は、そうか。具を目いっぱい入れようとするからイマイチうまくできないんだ。
ひとりの夜、冷凍してあった餃子の具にちょっとだけ葱のみじん切りを足して包み、小さめの餃子を10個焼いた。もちろん具は少なめにして、隙間ができるようにして。冷凍の具だったにもかかわらず、餃子はことのほか美味しく焼けた。
ありがとう。森宮さん。
餃子の具はキャベツもにらも細かく切られていて、口の中に何も残らず、すんなり喉へ滑り込んでいく。野菜の水切りもしっかりされているから、少し冷めてもべちゃっとならずにおいしい。空気感はさておき、手間暇かけて作った味だ。そう言おうかと思ったけれど、森宮さんの話がさらに長くなるのも困るからやめにした。
手間暇かけて空気感まで考えて作った森宮さんの気持ちは、優子にしっかり届いていた。
ひとり餃子。いつも目玉焼きを焼く、小さい方のフライパンで十分です。
カリッと焼けた!
もちろんビールで♩ やっぱ餃子は、空気感だよね~(笑)
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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