東京の実家から、北海道のじゃが芋と玉葱が届いた。
両親は、北海道の出で、向こうに親戚が多い。伯母がたくさん送ってきたのでお裾分けだそうだ。
台風の安否確認も兼ねて電話すると、母が出て、
「男爵とメークインは、分けて入れたから」
と、聞かずともわかっていることを言う。
あらためて、北海道出身の両親にとって、「じゃが芋」という固有名詞より、「男爵」や「メークイン」の方が慣れ親しんだ言葉なのだと実感した。
男爵は、スーパーで「男爵」とかかれ売られているものとはまったく違い、茹でるとびっくりするほど粉を吹いた。シンプル料理の「粉吹き芋」の名は、きっと男爵を茹でた人が名づけたのだろう。
はて。子どもの頃から親しくしていた「男爵」と「メークイン」という名を、子どもたちは知っているだろうか。その違いを、食べてわかるだろうか。
たぶんわたしは子どもの頃から、毎年親類から送られてくるふた種類のじゃが芋をその名で呼び、食べていたから、故郷の味のようななつかしさをも覚えるのだろう。
そんなことを考えていたら、子どもの頃母に聞かされた北海道での話がするすると思い出された。おっとりしている母だが、足が速くすばしっこく「オートバイ」と呼ばれていたこと。そのオートバイである母が、蛇に追われ追いつかれる寸前に直角に曲がると、蛇がそのまままっすぐ進み、事なきを得たこと。その話を何度も聞き、蛇に追いかけられたらまっすぐ逃げてはいけないと自分に言い聞かせていたこと。けれど、そんな事態に陥ることは一度もなかったこと。などなど。
「男爵」と「メークイン」が詰まった箱は、まるで玉手箱のようにふわふわといろいろな記憶を出しては消えていった。
小粒できれいなじゃが芋(男爵とメークイン)と玉葱でした。
茹でると粉がいっぱい吹いているのが新鮮。
いつものアンチョビとにんにくのポテトサラダもひと味違いました。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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