雨のなか歩き回ってしんどい思いもしたが、ひとり旅は気楽だった。
雨でもなんでも行きたければ行けばいいし、戻りたければ戻ればいい。気遣いも相談も不要だ。道に迷おうが失敗しようが、肩をすくめればそれで済む。
2日目は、午後1時には「特急ときわ」に乗らなくてはならなかったので、美術館と3つのギャラリーに焦点を絞り、8時半にホテルをチェックアウトし、笠間芸術の森公園をウォーキングした。
美術館をゆっくりと歩き、前日に目星をつけていた「ペアの平たいスープ皿」と「鍋のときの取り皿用大きめ小鉢」をゲット。
それから、最初に入った「ギャラリーさら紗」の扉を開けた。「小さなご飯茶碗」は、もう買ってしまったのでほかのうつわをじっくりと愛でる。
すると、予期せぬことが起こった。
あるひとつのうつわに目を留めた途端、耳に馴染んだメロディが頭のなかで流れ始めたのである。
エリック・クラプトンのアルバム『backhome』に収められた「I'm going left」だ。
そのうつわは、照準を定めたものには含まれない、言ってしまえば料理を盛りつけしたときの様子を想像することも難しい、食卓に必要とされるタイプのものではなかった。
楕円のゴツゴツした手触りの深皿に、大きく矢印が描かれている。
その矢印は、左を指していた。
I'm going leftは、直訳すれば「わたしは左へ行きます」になるが、アルバムの和訳では「僕はここにとどまります」になっている。
I'm going left
Till you lead me to the right
Lead me to what is right
僕はここにとどまります
あなたの導きを待って
真実の道を示してくれるまで
歌詞を要約してみよう。
みんなが行く場所には〈僕〉は行けない。真実行きの列車の通行料は高くて払えそうにない。〈僕〉はその列車に乗らずに、自分が選んだ道を行くしかない。不安もある。友達も当てにならないかもしれない。だけど、あなたの導きを待って、今はここにいるのだ。
rightは「右」ではなく「真実」と訳されているが、「正しい」とも取れる言葉だ。
みんなにとって正しい方向だとしても、僕はそっちには行けないよ。たとえ、僕の選択が間違っていたとしても。
エリック・クラプトンは、歌う。
そのうつわを手にしたとき、その矢印と土の重さと温もりに、なにか許されたような気持ちになったのである。
「笠間工芸の丘〈クラフトヒルズKASAMA〉」です。右手にあるのは、登り窯レプリカ。
笠間芸術の森公園は、広ーい!
ところどころにアート作品が。
これもアート?
雀かな?
番犬が逃げましたアート(笑)
途中で霧雨が降ってきましたが、気持ちのいいウォーキングになりました。
「I bought 7 in total」「全部で7つ買ったよ」
帰宅翌日、オンライン英会話レッスンで話しました。
「I visited 20 stores. and I walked 15,000 steps」「that's amazing!」
「I'm going left」が、頭のなかで流れたうつわです。
逆さにすれば、右→(笑)違うギャラリーで購入した「夫の紅茶用マグカップ」は図らずも同じ作家さんの作品でした。
「CRAFT BORO×BORO」さんは、ご夫婦でユニットを組んでいるそうです。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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