神戸で義母の検診のあと、病院近くの蕎麦屋でランチした。
「生ビールは、あるかしらねえ」という義母の危惧は、杞憂に終わった。病院に隣接していても、蕎麦屋は蕎麦屋。夫と義母、わたしの3人で生ビールで乾杯する。義母の心臓弁膜症の手術から1年が経ち、まるっきり心配がないというわけではないが、今のまま気をつけて暮らしていきましょうという診断だった。
さて、この蕎麦屋。以前から気になっていた。店先に「鴨なんば」という看板が出ていたのだ。「鴨南蛮」ではなく「鴨なんば」なのだ。
「どうして、なんばんじゃないの? 難波って意味?」
神戸生まれ神戸育ちの夫に聴くも、さあと首を傾げるだけ。
調べてみるも、関西では「鴨なんば」「カレーなんば」と呼び、関東では「鴨なんばん」「カレーなんばん」と呼ぶらしいということしかわからなかった。
というわけで、ということもないのだが、わたしは鴨なんばを注文。夫は親子丼セット、義母は天麩羅蕎麦セットをオーダーした。
「方言の違いってことかな」などと考えているうちに、鴨なんばが来た。
じっと、湯気が立つ鴨なんばを見つめる。
「鴨なんば」は、関東で食べる「鴨なんばん」と、どこも変わりはなかった。
鴨なんばを置き、店員さんが立ち去った後に、夫がこっそり言った。
「今さ、鴨なんばじゃなくて、鴨なんばんです、って言ったよね?」
「うそ! 聞いてなかった! 聞きたかった!」
ああ。こういうのを、彼はいつもしっかり聞いていて、わたしは常に聞き逃す。
特急に乗り家に帰るときにも、甲府からの乗り継ぎの放送を聞き逃すまいと耳を澄ましているのに、聞けたためしがない。どこかでふっと集中が途切れるのだ。
うーむ。関西鴨なんば事情の真実や如何に。これは次回もまた、鴨なんばを食べなくては。「今度は、聞き逃さないぞ!」と、熱く胸に誓った。
きっぱり「鴨なんば」とあります。神戸生まれの夫も知らなかったから、関西特有の呼び方だとは思いませんでした。
焼き葱に、鴨と鰹のお出しが浸みていました。山椒をたっぷりかけて。
夫の親子丼&ざる蕎麦セット。丼というより深めのお皿という感じ。
義母の天麩羅蕎麦&かやくご飯セットです。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
*このサイトの文章および写真を、無断で使用することを禁じます。
管理人が承認するまで画面には反映されません。