先週東京に出た際、渋谷のBunkamuraにニューヨークが生んだ伝説『写真家ソール・ライター展』を観に行った。
ソール・ライター(1923年―2013年)は、20代で写真家の道を歩き始め、その後『ハーパーズバザー』『英国版ヴォーク』などでファッションフォトグラファーとして活躍したそうだ。60代で一線から退き、注目を集めた写真集『Early Color』を出版したのは2006年。83歳のときだったという。
彼が「カラー写真の先駆者」と呼ばれるのは、デジタル加工したアートと呼ばれる写真が登場する以前に、加工を施さずフレーミング、ミラーリングなどで独特の視覚を生み出すことに成功していたからだ。
「えっ、これ加工してないの? これも?」
じつを言うと、写真展を観て歩いたときには加工してあるものとばかり思っていた写真が、そうではないと知り驚かされた。
私は色が好きだった。たとえ多くの写真家が軽んじたり、表面的だとか思ったりしても。
写真展にあった、ソール・ライターの言葉だ。
写真を見る人への写真家からの贈り物は、日常で見過ごされている美をときどき提示することだ。
彼には、日常がこの数々の写真のように見えていたのだろうか。
写真はしばしば重要な瞬間を切り取るものとして扱われたりするが、本当は終わることのない世界の小さな断片と思い出なのだ。
彼は、長くファッションの世界に身を置きながら、しかし日常のなかにあるものをこよなく愛していた。
雨粒に包まれた窓の方が、私にとっては有名人の写真より面白い。
愛するがゆえに、多くのものを目にすることができたのだと思う。
神秘的なことは馴染み深い場所で起きると思っている。なにも、世界の裏側まで行く必要はない。
ソール・ライターの写真を見て、外へ出たら、ぼんやりと眺めていた毎日のなかにある風景が輪郭が描かれたようにくっきりと見えてきたような気がした。
重要なのは、どこで見たとか、何を見たとかいうことではなく、どのように見たかということだ。
Bunnkamuraザ・ミュージアムの入口です。猫が可愛い。
『写真家ソール・ライター急がない人生で見つけた13のこと』も上映中でした。
図録を購入しました。表紙はモノクロ風景に鮮明な赤。代表作『足跡』です。
『靴磨きの靴』磨かれた靴ではなく、日常を受け入れたそのままの靴でした。
6月25日まで開催中。足を運んでみてはいかがですか?
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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