ご縁があって、末娘の母校である高校の演劇を観に出かけた。
演劇『ノラとクロ』は、『犬の消えた日』という実話をもとに描かれた戦争中の犬たちの物語をベースに、北杜市にほど近い長野県川上村の川上犬をモデルにして作られていた。
山梨の叔母のもとに疎開してきた久子は、オオカミの子孫だという仔犬を「クロ」と名づけ可愛がっていた。茶色の仔犬だったが、東京で飼っていたシェパードを軍用犬に差し出した辛い思い出から、その犬と同じ名をつけた。野良犬の「ノラ」は、クロの餌をかすめ盗りつつも、クロを可愛がり生きるすべを教えていく。だが戦渦は犬たちを取り巻く状況さえも放っておかなかった。飼い犬はすべて兵士たちが着るための毛皮にされることとなり、お国のためにと「供出」しなければならなくなったのだ。
お国のため。それに従わない者は「非国民」と呼ばれ厳しく処罰された。
姪、久子のためにもクロを殺したくない叔母は、お国のため、戦地でがんばっている兵士たちのため、そして隣組の人たちに迷惑はかけられないとの思いに苛まれる。クロを供出するように強い言葉を投げかける隣人も、悪人というわけではない。連帯責任とされることの恐怖と闘っている。
だから、思わざるを得ない。
犬を殺すことが正しい選択なのだと。
叔母が、ノラとクロを自分の手で殺そうとする姿が印象に残った。人の心を失くし狂気に落ちた姿。それは戦地で、殺したくもない人を殺さなければならない兵士たちの姿を思わせた。
上からは、正しいとは思えないことを強要される。下からは、正しいことを突きつけられる。自分の判断がほかの人まで危険にさらすことになる。こうして人は狂っていくのだと、いつのまにか叔母、文子に感情移入していた。
二度と戦争を起こしてはならない。
高校生たちが真剣に演じる姿を観て、あらためてそう考えた。
上演された『双葉ふれあい文化館』です。山梨県高等学校演劇大会地区予選だそうです。
以前読んだ『犬の消えた日』を思い出しながら、観劇しました。お世話になっている著者の井上こみち先生のご紹介で観ることができました。
☆『地球の歩き方』ニュース&レポートに記事をかきました。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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