「テッポウユリの花って、いっぺんに落ちるんだね」
夫の言うとおり、大きな花をそのままの形で地面に落としている。
「毎年見ているはずなのに、わたしも初めて見るみたいに、おんなじこと思った」
同じ株につけた蕾、8輪のうちのすべてが咲きそろうことなく、椿のように、一輪丸ごとダイビングしていった。
そのテッポウユリに、カマキリが乗っていた。カナブンは、蜜を吸いにたくさんやってくるのだが、カマキリは珍しい。まだ大きくなり切っていない、透明感の残ったカマキリだ。
両手、いや釜を合わせ、祈りのポーズをしている。
餌を捕る準備、あるいは警戒しているときに、このポーズをとるらしい。
「餌が見つかるといいね」
声をかけ立ち去ったが、夕刻ふたたび見に来ると、まだ同じポーズをとっている。
「餌でも、警戒でもないのかな?」
調べると〈擬態〉と出てきた。木や植物になり切る。そういうときにもこのポーズで動かないそうだ。
「でもさ、真っ白いテッポウユリに緑のキミが擬態したって」
そう思って、ハッとする。
テッポウユリの雌しべがカマキリと同じ色合いなのだ。それも、ちょっと透明感が残るこの子とよく似ている。なるほど。
「がんばれよ」
ミクロの世界の不思議に、ちょっとだけ仲間入りしたような気分で声をかけた。
いちばん咲いていた頃のテッポウユリ。
すべての花が咲きそろうことなく、最初の花は落ちていきました。
最後の花は、こんな感じでちょっと淋しく。
カマキリくん、そのカナブンはご飯にするには大きいのでは?
朝から夕方まで、ここでこのポーズをとり続けていました。
おっ、この雌しべ、色といい形といい、カマキリくんの顔に似てる!
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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