きのうの朝は、ひどく冷え込んだ。
薪を燃やしても燃やしても、部屋が温まらない。大寒波は、我が家の居間にまで押し寄せていた。
「これじゃ、寒すぎるよ。床暖房を見直そう」
朝、夫が言い出した。
彼は、朝食前に床の上でストレッチをするので、キッチンに立っていたわたしより、床の冷たさを痛いほど感じたのだろう。
我が家は東京電力と「電化上手」というプランで契約している。
夜間午後11時から午前7時までがいちばん安く、昼間午前7時から午後5時までがもっとも高い。朝晩午前7時から10時までと午後5時から11時までが、その中間だ。なので安い時間にタイマーで床暖房をつけ、朝起きたときには居間が暖かいようにしていた。
「でも、高い時間に床暖房入れたら、電気代はねあがっちゃうよ」
タイマーをかける時間を検討しつつ言うと、夫が言った。
「節電、節電って、寒い部屋にいるんじゃ、暖房の意味ないんじゃない?」
ハッとした。そうだった。この極寒の時期に部屋を暖めることが、いちばんの課題。暖かく過ごせる範囲のなかで節電を考えるべきだったのだ。
ひとつのことに気をとられて、ものごとの本質を見失ってしまうことって、ほんとうによくある。読んだばかりの『マスカレード・ナイト』にも、こんなシーンがあった。
尚美は急いで頭の中を整理した。代替案を出すには、客の要求の本質を理解しなければならない。今、この場で求められていることはなんだろうか。
「いっておくけど、別の女性をさそうなんてのは論外だ。それなら一人で食事をしたほうがましだ。日を改めて、というのもなし。僕は元日には出発しなきゃいけないからな」
つまり時間制限があり、会食の相手はあの仲根緑という女性でなければならないわけだ。いや……尚美は気づいた。日下部の目的は食事をすることではないはずだ。
一目惚れした見ず知らずの女性と今夜食事がしたい。そんなむちゃくちゃな客の要望に、それでも尚美はコンシェルジュとして誠実に応えていく。
本質を見極めることって、どんな仕事でも大切になってくるんだろうな。そう。主婦の仕事でもね。
薪ストーブくん、がんがんに燃えてくれてるんだけどな~
☆『地球の歩き方』特派員ブログ、更新しました。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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