「ナティン nating」
パプアニューギニアの公用語、トク・ピシン語で「唯の、普通の、特にさしたることのない」ことだそうだ。
例えば、砂糖を入れない珈琲。目的のない訪問。格別偉くもない人、など。
絵本『なくなりそうな世界のことば』(創元社)は、世界の少数言語50の単語を集めている。そのなかのひとつで、とても魅かれた言葉だ。
きのうの夕方、ゴミを出しに行った。田舎なのでゴミ集積所が遠く、いつも車で行く。そして、ゴミを出し、帰り道は八ヶ岳と南アルプスが見える道を走った。特にさしたることのない夕方だ。車を走らせていると、フロントガラスに蟻が降ってきた。たぶん道沿いの木から落ちてきたのだろう。わたしは、ワイパーを動かさないように気をつけて運転した。蟻は、我が家の駐車場まで、そのままフロントガラスに張りついていた。
「ナティン」
蟻を見てつぶやいた。特にさしたることのない日の特にさしたることのない夕方。たぶん、こういうのを「ナティン」と呼ぶのだ。
「なくなりそうな」とあるけれど、6月に旅したビルバオで使われているバスク語も載っている。バスク語はなくならないだろう、と確信している。
ビルバオでは、いくつかのバルで、言葉の通じない観光客のわたしたちに、
「バスク語のありがとうは、Eskerrik asko(エスケリクアシコ)って言うんだ」
そう教えてくれた。バスク語が大好きで誇りを持って使ってるんだろうな。
スペイン。カタルーニャ独立で騒然としてて心配だけど。
「ナティン」とつぶやき、遠くパプアニューギニアの空を思い描きながら、この町の空が映るフロントガラスの小さな蟻をしばし見つめていた。
車のフロントガラスです。空と家の屋根と山桜の木が映っています。
ゴミ出しの帰りに見えた空と八ヶ岳。
こちらは南アルプス連峰の甲斐駒ケ岳です。夕暮れ間近です。
ススキたちは、中秋の名月、見たのでしょうか。
懸賞で当たった図書カードで買いました。うれしいな。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
*このサイトの文章および写真を、無断で使用することを禁じます。
管理人が承認するまで画面には反映されません。