平岡勘三郎良辰さんの山百合が咲き始めた。
といってもお世話をしているのが勘三郎さんというわけではない。勘三郎さんのお墓のそばに咲く山百合のことだ。
勘三郎さんは、明野の農業用水、朝穂堰(あさほせぎ)を作るために尽力したお方。この町に緑豊かな棚田が広がるのは、彼のおかげだとも言える。
日々通る場所にあるので、蕾が膨らんだなと楽しみにしていた。
長い梅雨の湿気をたっぷりと吸い、ようやく射した陽の光を浴び、何とも気持ちよさそうに咲いている。首を傾げ、微笑みかけてくるようなたたずまいだ。
写真を撮ろうと近づいた瞬間、つんと鼻をくすぐる匂いを感じた。
「山百合の匂いだ」
こんなに香る花だったっけ、とかすかな驚きが走る。
山百合が咲く。その視覚で捉えたさまは、きちんと記憶の箱のなかにしまってあって、いつでも取り出せる。けれどその匂いまでは、記憶の箱にしまい切れていなかったのだと気づいた。
植物は毎年同じように咲いている。それなのに、逢うたびに新しい驚きをくれるのだ。
五感の曖昧さと、確かさと。
そんな両極端を人が持つことで何でもない暮らしが豊かになっていくのだと、山百合の匂いが教えてくれたような気がした。
道のわきにひっそりと咲いています。
凛としていますね。
次々に蕾を開いて寄り添うように咲いています。
大輪ですねえ。
苔生す平岡勘三郎辰良辰さんのお墓。
☆シミルボンからお仕事をいただいてかいた原稿をアップしました。
「本で、誰も、ひとりにさせない。」という企画です。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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