大寒を迎えた朝、降り積もった雪の上にいくつかの足跡を見つけた。
小さな靴が、ふたり分。近所の小学生、サキちゃんとユウくんだろう。すべらないようにそろりそろりと歩いていく様子が目に浮かんだ。
こっちには、大きな靴と動物の足跡。タケさんとシバだな。雪の日もちゃんと散歩しているのか。タケさん、シバのことを目に入れても痛くないってほど可愛がっているから、行こう行こうってねだられて、散歩に出たんだろう。
あっちには小さめだけど大人の靴。ひとり、道路を横切っていく足跡。梅林の隣りにひとり暮らししているハルエばあちゃんの家の方まで続いている。きっと、ミチコさんだ。雪が降って心配になり、顔を見に行ったんだろう。
そう言えばわたしもついこのあいだまで、はす向かいにひとり暮らすワタルじいちゃんの家によくご機嫌うかがいに足を運んでいた。暮れの冷え込んだ日に亡くなるまでは、雪の日にこんなふうに足跡をつけて大根の煮物なんかを持っていったりもした。
「もうワタルじいちゃんの家に向かうわたしの足跡は、つかないんだなあ」
そう考えたとき、ふっと時間が後戻りしたかのように見えた気がした。雪に隠されたたくさんの見えない足跡が。
毎日学校へ通うサキちゃんとユウくんの足跡。朝夕散歩するタケさんとシバの足跡。ハルエばあちゃんの家へちょこちょこと顔を見に行くミチコさんの足跡。そして、わたしがワタルじいちゃんの家へと向かった足跡も。
雪の上についた足跡のように目には見えないけれど、わたしたちは日々足跡をつけて歩いている。誰にも見えない、決して消えることのない足跡を。
☆昨年エッセイ教室でかいた随筆です。
雪の朝、ウッドデッキについた猫の足跡。
階段を上ってきた跡もくっきりついています。
雪じゃない日にもたくさんの足跡、残しているのかなあ。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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