CATEGORY

BACKNUMBER

OTHER

はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々

金木犀に立ち止まって

庭の金木犀の花が、今年はいつになくたくさん咲いた。いい匂いだ。

 

金木犀の匂いを嗅ぐと、結婚したばかりの頃を思い出す。

暮らしていたのは、東京大田区の住宅街。6畳一間のアパートは駅から十分ほど歩いたところ、急な坂を登った高台にあった。その道の途中、立ち並ぶ家々の庭のどこかに金木犀があったのだ。花は一度も見たことがない。ただ鼻を突く甘く強い匂いに、何度も立ち止まったことを思い出す。印象としては、肌寒い夜のような気がしていたのだが、秋の初めだったのだろうか。

 

結婚生活に慣れていなかったことや、共働きで忙しかったこともあり、その日のことをその日のうちに終わらせることなどまるでできないような、慌ただしい日々だった。できないことばかりを積み重ねていき、心も身体も疲れ切っていた。気持ちはささくれだち、道端に咲く花に目を向ける余裕すらない。

 

そんなときふと、金木犀が匂ってきたのだ。

不意に涙がこぼれた。

忘れていたこと、目に入らなくなっていたものが、目の前にあふれだす。

たぶんどこにでもあるような、わたしの小さな毎日。けれどそのなかには、きらめくものが数限りなく散りばめられている。それは、見ようとしなければ見過ごしてしまう、気づかずに通り過ぎても何一つ困ることのないほんとうに些細なものたちで、そのとき自分がそれを忘れていたのだと気づいたのだ。

姿を見せずとも、金木犀は、その匂いで教えてくれた。

金木犀の匂いを嗅ぐと、思い出す。そのときのこと。あの坂道。狭いアパートの部屋。東京の風。

CIMG2580

優しいオレンジ色の小さな肉厚な花びら。ちょっとユーモラスな雰囲気です。

CIMG2596情けなく垂れさがって咲くところも、可愛い。

CIMG2602でも、木漏れ日のなか、金色に光るところがいちばん好きです。

CIMG2591こんなにいっぱい咲きました。いい匂い。庭を歩くのが楽しいです。

CIMG2578薪小屋の脇なので、道路からはよく見えません。匂いだけがするのかな?

 

COMMENT

管理人が承認するまで画面には反映されません。

さえ へ返信する コメントをキャンセル

CAPTCHA


  1. 悠里 より:

    金木犀いい匂いですね。此処に越して来て、直ぐに西側に植えました。結構大きな木になっていましたが、2年前に根元からバッサリ切ってしまいました。
    というのは、喘息に良くない といわれたからです。春も秋も体調が悪かったですが、それからは以前よりは良いような気がします。
    夫の実家には 銀木犀があります、花は白く香りも金木犀よりはおとなしいです。戦前からの物なので、かなり大きい木になっています。
    金木犀いりの紅茶も、お気に入りで良く飲んでいましたが、あれ以来控えています、残念です
    しかし、この時期になると、どこからともなく微かににおう優しいかおり、癒されるようにさえ思います。

    • さえ より:

      悠里さん
      金木犀の香り、甘く優しい香りですよね~
      でも喘息によくないんですか?知りませんでした。長患いしないようにがんばって治したいと思います。
      白いお花の銀木犀っていう木もあるんですってね。最近知りました。戦前からと言うと年輪80年くらいでしょうか。大木ですね。
      金木犀入りの工芸茶、買ってみようかと思いましたが、咳喘息が治るまで我慢します。教えてくださってありがとうございます。
      でもでも金木犀の香り、癒されますよね~♡

PROFILE

プロフィール
水月

随筆屋。

Webライター。

1962年東京生まれ。

2000年に山梨県北杜市に移住。

2012年から随筆をかき始める。

妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。



『地球の歩き方』北杜・山梨ブログ特派員

 

*このサイトの文章および写真を、無断で使用することを禁じます。

 

ご意見などのメール

CATEGORY

カテゴリ

BACKNUMBER

バックナンバー

CALENDAR

カレンダー
2024年4月
« 3月    
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
2930  

はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々

COPYRIGHT © 2016 HARINEZUMIGA NEMURUTOKI. ALL RIGHTS RESERVED.© 2016 HARINEZUMIGA NEMURUTOKI.