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はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々

『あの日以降』

3月11日。東日本大震災をテーマに据えた小説をひとつ、紹介しようと思う。

森絵都の短編『あの日以降』は、東京で借家をシェアし3人で暮らす30代後半の女性たち。彼女らの2011年3月11日以降を描いた小説だ。

 

主人公の藤子は、働いていたカフェのオーナーと恋仲だったが、彼が故郷仙台に炊きだしのボランティアに行ってしまい、カフェも閉店。メニューを試作しながら、彼を案じ待つだけの日々。

ヨッシは、10年も不倫を続けてきた彼と、震災以降会えなくなった。地震で家に帰れなくなったら困るからと彼は毎日まっすぐ家に帰るようになったという。

眞由さんは、地震の恐怖に耐えられず、「男がいなきゃダメだ」と言い残し、別居していた夫のもとへと帰ってしまった。

 

余震が続くなか、震災以降雨漏りがするようになった洗面所は修繕の手を加えてもなかなか直らず、「男が」といった眞由さんの言葉が重く沈み、先行きの不安と、今ひとりでいる淋しさが藤子とヨッシの関係までパサつかせる。

私たちがこの家でちまちまと揉めているあいだも、東北では深刻な事態が続いていた。震災で亡くなった人たちの姿に触れるたび、私は自らに課せられた試練の小ささを恥じ入った。そのミクロな試練にも負けそうだった自分を。

被災していない自分の、小さな悩み。それにさえ打ち勝てない自分の弱さが、心に突き刺さる。あの日以降、考えることも、ふと感じることも、大きく変わってしまっていた。そして、彼だけは変わらず明るく元気だと思っていた雨漏りを直しに来る大工の小西さんだって、見えないところで大きく変わっていた。

「あの地震のあとは、なんか、自分の命を、そりほど大事に思えなくなっちゃったんだよね」

小西さんは、自分はもう63歳まで生きさせてもらったんだから、あとは自分の身体のことなど考えずに人手の足りないこの仕事をできる限りやろうと決めていた。そして仕事中、屋根から落ちたのだ。

 

ラスト、藤子は、心を決める。

先のことはわからないけれど、今と向き合って動き出そうと。

CIMG7480短編集『漁師の愛人』(文春文庫)に収められた一編です。

東日本大震災で亡くなった方々のご冥福をお祈りします。

COMMENT

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  1. ぱす より:

    こんにちわ。
    7年経ちましたね。
    どの人の心にも、実際に被害は遭っていなくても大きな出来事でしたね。
    そして、あれから幾つも災害があって、いつどこが見舞われてもおかしくないような現実ですね。

    でも、やっぱり日々忘れてしまっている。
    まさに、ちまちまと小さなことで揉めたり、悩んだりの毎日です。
    かけがえのない変哲のない日常。それこそが尊い!とこの日が来るとそう思いますね。

    • さえ より:

      ぱすさん
      おはようございます。
      7年になるんですよね。
      ほんとうに被災していない人にとっても人生を変えてしまうような大きな災害で、生きるということを今も根っこのところで考えこんでしまうこまとがわたしにもあります。
      あたりまえの、ごく普通の毎日。大切にしたいですね。
      そのためにも、震災の記憶を忘れることなく考え続けていきたいです。

PROFILE

プロフィール
水月 さえ

随筆屋。

1962年東京生まれ。

2000年に山梨県北杜市に移住。

夫が営む広告会社で経理を担当。

2012年から随筆をかき始める。

 

妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。

 

『地球の歩き方』北杜・山梨ブログ特派員

 

随筆かきます。

 

依頼はメールフォームからお願いします。

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