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はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々

『そして、バトンは渡された』

私には父親が三人、母親が二人いる。家族の形態は、十七年間で七回も変わった。でも、全然不幸ではないのだ。

【水戸】産みの親。母は天国に、父はブラジルにいる(らしい)。

【梨花】若くて美人でおしゃれな義母。優子にピアノを与えてくれた。

【泉ヶ原】威厳有る、お金持ちの義父。でも少しお人好し。

【森宮】一流企業で働きながら、男手一つで優子を育てている。

帯裏にかかれた紹介文だ。

 

森宮優子、17歳。血の繋がらない父親の森宮さんは、37歳。高校入学と同時に一緒に暮らし始めた。

そんなややこしい優子の生い立ちを辿りながら、友達とのいざこざや、森宮さんと過ごす時間や、優子の恋などが現在進行形で語られていく。森宮さんは、全力で優子の父親であろうとがんばっている。ちょっとずれてはいるんだけど。

試験の前日、森宮さんが作ってくれた夜食はオムライスだった。

「洋食は夜食には重いけど、森宮さんの卵料理って大好き」

と机の上に置かれたオムライスを見た私は、「何これ」とぎょっとした。

オムライスには、ケチャップで「今日はよく寝て、本番に備えよう。合格できると信じてリラックスしながらがんばって!」と長々とメッセージが書かれていたのだ。

「ちょっと怖いんだけど」

「どうして? オムライスの上にケチャップで言葉書くのって定番じゃないの」

森宮さんはきょとんとした。

「それって、大好きとか名前とかせいぜい三文字でしょう? こんな小さい文字でオムライス全面に言葉を書かれたんじゃ、赤だけにダイイングメッセージみたいでただただ怖い」

「そっか。道理でたいへんだったんだな。つまようじを駆使して描いたから、三十分はかかったよ」

そういう森宮さんに、私は笑いが止まらなくなった。

森宮さんは、血が繋がらないだけにいい父親になろうと必死だ。必死すぎて言動も行動もどこか笑える。優子は、クラスの友達とのもめごとで元気がなかったとき、パワーをつけなきゃと餃子攻めにした森宮さんを笑いつつも思うのだ。

カレーは辛いのに、玉ねぎもにんじんも甘くておいしい。きっとしっかり炒めたからだ。塞いでいるときも元気なときも、ごはんを作ってくれる人がいる。それは、どんな献立よりも力を与えてくれることかもしれない。

餃子にドライカレー、ドリア、ラーメン、サバの味噌煮などなど。普通なんだけど美味しそうな料理が登場するのもこの小説の魅力。

血が繋がっていてもいなくても、一緒にご飯を食べるっていいなと思えてくる。いつもよりちょっと手をかけて料理したくなる。

そして、離れて暮らす家族に会いたくなる。

「自分のために生きるって難しいよな。何をしたら自分が満たされるかさえわからないんだから。金や勉強や仕事や恋や、どれも正解のようで、どれもどこか違う。でもさ、優子ちゃんが笑顔を見せてくれるだけで、こうやって育っていく姿を見るだけで、十分だって思える。これが俺の手にしたかったものなんだって」

森宮さんの言葉に、何か自分が手にしたかったものがうっすらと見えたような気がした。

深いグリーンとオレンジが効いた装幀。オレンジの紐栞がきれいです。

最近、血の繋がらない親子のストーリーが多いように思います。ドラマ『義母と娘のブルース』もそうだったし、映画『僕の妻と結婚してください』もそうですね。

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PROFILE

プロフィール
水月 さえ

随筆屋。

1962年東京生まれ。

2000年に山梨県北杜市に移住。

夫が営む広告会社で経理を担当。

2012年から随筆をかき始める。

 

妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。

 

『地球の歩き方』北杜・山梨ブログ特派員

 

随筆かきます。

 

依頼はメールフォームからお願いします。

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