再読の日々。マイ小説best5に入る江國香織『ぼくの小鳥ちゃん』。
雪の降る朝、突然〈ぼく〉のアパートに不時着した、小鳥ちゃん。
小鳥ちゃんは、〈ぼく〉とだけ会話する。
〈ぼく〉がガールフレンドに言われ、ペットショップで買ってきたボレー粉(カルシウムたっぷりの鳥の餌)を出すと、それは食べられないという。
「なにに、ラム酒がかかってるの?」
「アイスクリームよ。もちろん」
小鳥ちゃんは言う。
「あたしのごはんはそれにして。三度三度それでもかまわないわよ」
小鳥ちゃんは、〈ぼく〉の部屋に棲みついた。
鳥かごはなく、部屋全体が彼女の鳥かごだ。夜は、ガールフレンドがくれたバスケットで眠る。ウエハースみたいに軽い寝息を立てて。
”ん”で終わらないしりとりが好きで、病気になったからとアイスクリームをねだり、デートにも同行する小鳥ちゃん。
最近、そんな小鳥ちゃんの元気がないと思ったら。
「あたし、考えたんだけど、一度スケートっていうものをしてみようかとおもうの」
ぼくは小鳥ちゃんの顔をみた。
「スケートがしたいの?」
そうなのだ。小鳥ちゃんは、ぼくとガールフレンドが二人だけで(たぶんたのしそうに)すべっていたのがおもしろくなかったのだ。
ある日、〈ぼく〉と小鳥ちゃんに事件が起こり、今度は〈ぼく〉がガールフレンドとのデートも上の空。
彼女はぼくにおかまいなしで、エンジンをとめイグニッションキーをぬく。サングラスをかけた横顔。
「たのしそうにして」
まえをむいたまま彼女は言う。
「たのしくないのなら帰って」
ぼくは困った。急にたのしそうにはできないからだ。
ガールフレンドは、言う。
「こういうとき、あなたの小鳥ちゃんなら窓からとんでいっちゃうんでしょうね」
ガールフレンドの母親が〈ぼく〉に会うと頬にキスするところなどから、たぶん舞台設定は、日本ではない。外国の、どこかの国。雪が降る冬を過ごし、水仙が咲く春が来る。
あかるくてきれいなものが好きなの
小鳥ちゃんは、モーツアルト、特にブレンデルのピアノが好きだ。
こんなふうに生きられたらと思うほどに、わがまま放題で自由な小鳥ちゃん。だが、それでもままならないことだってある。
この切なさは、いったいなんなのだろう。
1997年に刊行され、2000年第7刷を購入していました。イラストは、荒井良二。
小鳥ちゃんが行きたいと言った教会。
バスケットで眠る小鳥ちゃん。
スケートする小鳥ちゃん。スケート靴は、ガールフレンドが靴下を編み、〈ぼく〉がバターナイフを加工してつけました。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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