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はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々

『シルエット』

『シルエット』は、35歳で直木賞を受賞した島本理生が、17歳のときに執筆。群像新人文学賞優秀作に選ばれたデビュー作である。

何ヵ月も何ヵ月も雨が降り続き、もしかしたらこのまま雨の中に閉じ込められるかもしれない。そう予感するような季節のなかにいた。もちろん、わたし自身が。

こんな冒頭文で始まるのは、16歳の追いかけても追いかけても届かない恋の物語。〈わたし〉は、同級生の冠くんと恋をしていた。

冠くんは麦茶を飲み干した。喉仏に虫でも飼っているかのように、ぐっと喉の皮膚が揺れた。透けるような白だった。不健康ではなく上質と表現できる。不純物のない白。わたしは彼の体の中で喉が最も性的な部分だと思っていた。

しかしふたりは肉体的なかかわりを一切持つことはない。冠くんは、女性に触れることができなかったのだ。家を出て、男の匂いを身にまとい帰ってきた母親を見てから。父親は母親を刺して逃亡したままで、母親は寝たきりの状態だった。

 

手をつなぐことも、涙を流したときそっと肩を抱くことすらできない彼に〈わたし〉は、さよならを言うしかなかった。恋人に、もしも指一本触れることができなかったら、そうする以外ほかにどうしたらいいのだろう。

『シルエット』というタイトルは、たがいのあいだに降りしきる雨に、触れることもできぬままただ相手の影だけを見つめ合うイメージだろうか。

こんな一文もある。

わたしは盲目の動物のように、彼との関係の中を走り続けた。立ち止まって考えるということをせずに。本当は決して見えなかったわけではないのに。わたしのするべきことは、冷静に立ち止まって自分の頭の後ろに手を回し、巻かれていた目隠しをそっと外すだけだったのだ。

冠くんと別れ、〈わたし〉は新しい恋をする。

YesとNoがあって、なおかつGoodの使用回数が多い人生ならばそれでよしとしているところがある。

そんな2つ年上のせっちゃんは、〈わたし〉を抱きしめてくれる。

「せっちゃん。したい」

そんな言葉も、包み込むように受け止めてくれる。それでも〈わたし〉は、どこかで冠くんのことを忘れられずにいる自分に気づいてしまう。

 

文章の美しさが、切なくなる恋愛小説だった。

この文庫本には、ほかに掌編2作品、16歳でかいた『植物たちの呼吸』と、15歳でかいた『ヨル』が収められています。

 

☆シミルボンサイトで『島本理生、直木賞受賞記念連載!』を連載しています。

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PROFILE

プロフィール
水月 さえ

随筆屋。

1962年東京生まれ。

2000年に山梨県北杜市に移住。

夫が営む広告会社で経理を担当。

2012年から随筆をかき始める。

 

妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。

 

『地球の歩き方』北杜・山梨ブログ特派員

 

随筆かきます。

 

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