「う~ん。今、いいとこなんだけどな~」
電車のなかでの時間つぶしに読書する。実際、ただの時間つぶしになることも多いが、そうじゃない場合もある。このままどこまでも電車に揺られながら読み続けたーい! ここはどこ? わたしは誰? そんなことどうでもいい! となってしまう本もある。だが乗り過ごしてしまうわけにもいかない。
「っていうか、ずーっとクライマックスなんですけど」
そうつぶやかせたのは、東野圭吾『ラプラスの魔女』(角川文庫)だ。
秘湯と呼ばれる温泉地で、初老の男性が火山ガス、硫化水素中毒で死亡した。妻は20代という年の離れた結婚したばかりの夫婦で、刑事中岡は、妻の遺産目当ての犯行ではないかと疑う。
さらに、300キロも離れた温泉地でも、雪道を歩いていた男性が硫化水素中毒で死亡した。
地球科学の専門家で大学教授の青江は、事故調査を依頼され両方の現場を検証するが、どちらも事故が起こる可能性は限りなく低く、謎が深まるばかりだった。そして双方の現場で、青江は十代の女性に出会った。羽原円華。人を探しているという。しかしなぜ、事故現場に。質問すれど、疑問をはぐらかされながらも青江は円華と現場検証を行う。
「明日の朝、これを見て騒ぐ連中がいるだろうなあ」
すると羽原円華が、大丈夫、といった。「すぐに雪が降るから」
青江は空を見上げた。光る点がいくつも見つかった。「星が出てるぞ」
「今のうちだけ」彼女は断言した。「零時を少し過ぎた頃には降る」
「どうしてわかる?」
しかし彼女は答えず、温泉街に向かって歩き始めた。
円華の言うとおり、零時過ぎに雪が降りだし、ふたりの足跡は消えた。彼女は何者なのか。青江のなかに円華に対する興味が深まっていく。
19世紀。フランスの天才数学者ピエール・シモン・ラプラスは言ったそうだ。
「ある瞬間の物質の力学的状態とエネルギーを知り、計算できる知性があれば、未来がすべて見えるはずだ」
それから、未来に起こる出来事を予知できる者を「ラプラスの悪魔」と呼ぶようになったとか。
と言っても魔法のようなファンタジーの世界の話ではない。人間の知性の進化で、物理的なものを見通す目を持つ者のことだ。
その「ラプラスの悪魔」なら、殺人も完全犯罪になりうる。予知した自然現象を利用すればいい。たとえば火山ガスの滞留とか。
人間の行動パターンも、ある程度なら予測できる。
だけど、愛とか、衝動とか、そういうものも計算し予測できるのだろうか。
円華の根底には、母親の大きな愛がある。しかし、愛されることを知らず大人になった人間もいるのだ。
「知らない方がきっと幸せだよ」
ラプラスの魔女、円華に、未来はどんなふうに見えているのだろう。
映画『ラプラスの魔女』は、5月4日公開予定。広瀬すずの円華、観たーい!
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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