『倚りかからず』は、茨木のり子の8番目の詩集で70代で出版されたそうだ。
もはや
いかなる権力にも倚りかかりたくはない
ながく生きて
心底学んだのはそれぐらい
じぶんの耳目
じぶんの二本足のみで立っていて
なに不都合のことやある
倚りかかるとすれば
それは
椅子の背もたれだけ
73歳でかいたという表題作「倚りかからず」の一部分だ。
自分の耳目・二本足のみで立てば、世の中はもっと良くなる、少なくとも戦争に流されることは防げるという信念があったに違いない。
と、解説にはある。多感な十代の頃に戦争を体験した人ならではだと。
それはそうだとも思うけれど、そういう具体的なことではなくとも、ただ倚りかからずいたい、そういうふうに生きたいと共感する詩である。
とても好きだったのは「行方不明の時間」。
人間には
行方不明の時間が必要です
から始まるその詩は、終盤思いもよらぬ方へと向かう。
目には見えないけれど
この世のいたる所に
透明な回転ドアが設置されている
不気味でもあり 素敵でもある 回転ドア
ドアの向こうは「あの世」らしい。
さすれば
もはや完全なる行方不明
残された一つの愉しみでもあって
と続く。
死を、行方不明となる愉しみと歌い上げていることに、心が解放されていくのを感じた。愉快だ。
ほかに「時代おくれ」「笑う能力」「苦しみの日々 哀しみの日々」など18編が収録されている。
表紙絵は、国蝶オオムラサキの、上がオス、下がメスですね。我が家には飛んでくることがあるので、馴染みのある蝶です。
むかし撮ったオオムラサキの写真。
羽根を閉じると黄色っぽくて目立ちません。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
*このサイトの文章および写真を、無断で使用することを禁じます。
管理人が承認するまで画面には反映されません。