山本文緒の短編集『ブラック・ティー』(角川文庫)に、『夏風邪』という短編があり、特別好き、というわけでもないのに、折りにふれ思い出す。
薫は、30歳のOL。同い年で7年付き合っている彼がいるが、それは誰にも言えない。彼は若くして結婚し、すでにパパでもある。親友の澄子には、夫と5歳になる男の子がいる。親友でも、澄子にもずっと言えずに来た。
「結婚とか、考えてないの?」
予想していた質問だったので、私は笑顔を失わずに済んだ。
「会社の親父達のようなことを聞くじゃないの」
「だから、恐る恐る聞いたんじゃないの」
私は自分の爪を見つめる。どう返答しようか私は迷った。迷ったのは初めてだ。澄子であろうと誰であろうと、その質問の答えはいつも決めていたはずだったのに。
その彼にフラれたのは3か月前。不意に涙が止まらなくなり、すき焼きを用意してくれた澄子に帰るというと、意外な言葉が返ってきた。
「明日も会社だし、薬飲んで早く寝るわ」
彼女は腕を組み、静かにそこに立っていた。
「本当にごめんね。旦那様にもよろしくね。また来るから。電話するから」
「薫」
澄子の顔が悲しげに曇っている。
「あなたが、私みたいな平凡な主婦を軽蔑する気持ちは分かるけど」
私は息を飲んで彼女を見た。
「私だって、別に安穏と暮らしてるわけじゃないんだからね」
私は返事ができなかった。ただ黙って扉を開け、そこから出ていくしかなかった。
このふたりの気持ちのすれ違いに捉えられ、だから思い出すのだ。
主婦であることに、安住しているんじゃないのか、きみ?
実際にそんな軽蔑のまなざしを向けられることは、ままあるし、それが澄子のように思い過ごしであることもあるのだろう。どっちもどっちだ。
たぶん、どっちもどっちなことは、世界中にあふれている。
だけど、あれ? わたしもう20年以上会社員だった。自宅勤務ってだけで専業主婦だと思われちゃうんだよね。どっちつかず(笑)
山本文緒の短編集たちは、わたしのバイブルです。
いちばんのおススメは、『絶対泣かない』(角川文庫)です。
山本文緒原作のドラマを見ています。
ドラマとしては、安っぽいところもありますが、なかなか考えさせられるところもあります。
バイブル。そういう本を持っているということは、最強ですね。
何があっても、その都度、その個所を思い出して、やっていけそうな気がしますね。
わたしもどっちつかずです。
仕事を持ちながらも、絶対にこの仕事がしたかったというわけでもなく、流れで現在まで来ました。
あと5~6年で、終わるつもりですが、な~んも残せてないなと思うだけです。
ぱすさん
『あなたには帰る家がある』ですよね。
ぱすさんが紹介していたのを見て、観ようと思いながらそのままになっちゃいました。
ネットの紹介とかみると、安っぽい感じっていうの、わかります。
山本文緒は、よく20代でここまで深い小説をかけたなあって感心してしまうものが多いです。
ぱすさんも、職場のこと、よくブログにかいていますよね。
わたしは自宅勤務で職場の人間関係に悩むことはないので、いつもぱすさんがんばってるなあって尊敬のまなざしで見つめています。
きっとぱすさんのなかには、たくさんのことが残っていると思いますよ。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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