可愛らしい表紙とは裏腹に、男前なエッセイ集だ。
平松洋子の本は初めて手にしたが、世界各地を取材し食文化と暮らしをテーマに執筆している、昭和に育った(わたしより4つ年上)エッセイストである。
シミルボンサイトで、伊和 早希さんが紹介していた【シズル感に溢れてるんである】を読み、手に取った。
シズル感。初めて耳にする言葉だが、伊和 早希さん曰く。
広告写真などで使用される用語で、食欲や購買意欲を刺激するようなみずみずしい感覚のこと。特に食材や料理の表現が多い。
料理がジュージュー音を立てる様や肉汁が滴り落ちる様を表すsizzleを語源とする。
という意味合いの言葉でそうだ。
うん。たしかに、シズル感に溢れていた。
「おまえなんかにかつぶし触らせねえぞっ」
こんなセリフで始まる「わたしのだし取り物語」で、著者はぼやく。
(ふだんのごはん一回一回、いっつもまじめにだし取ってたら、今度はこっちの身が持たないんだよー)
しかし沖縄のおばあが取る出汁に、目から鱗が落ちたという。
ぐつぐつ、ぐつぐつ。
「おばあは、だしを取るとき、いつもこんなに煮るの?」
「そうさ。よおく煮て、だしはしっかり取らんと」
一番だしも二番だしもあったものではない。かつおぶしが鍋のなかで大運動会だ。
呪縛から解放され、思うのだった。
だしは上手に美しく取らなきゃと身構えるから、おっくうになる。キレのいい澄み切っただしだけが、だしではないぞ。
かくいうわたしも、かつおぶしや煮干しで出汁をとっていた時期があった。
二歳の息子とふたり、煮干しの頭を取るのを「遊び」としていたあの頃。しかし妹たちが生まれ料理そのものをする時間すらなくなり、それからずっと出汁の素のお世話になっている。
厳選した身体に悪いものが入っていない美味しい出汁の素を使い始めてからは、それが我が家の味噌汁の味になった。
平松洋子は、しかし出汁の素へは逃げなかった。
沖縄では、豚肉の出汁だけでも、かつお出汁と混ぜてもいい。香港の雲呑屋では、鶏ガラと大地魚(干しがれい)で。ベトナムはフォー専門店の厨房では、牛肉の骨となんとスルメで。イタリアのマンマは、オリーブの実だって出汁にするし、一人暮らしの男性からは漬物がいい出しになると教わった。
かつおぶしや昆布、煮干しに限らず、その先へ、その奥へとずんずん進んでいく。なんともパワフルだ。
「夏はやっぱりカレーです」でも、こう言っている。
「本格派」を遠目に見ながら、わたしはひとりごちた。
あんなこと毎日やってたら、主婦は台所で死んじゃうよ。
それでも平松洋子は、その先へと進まずにはいられない。インドへ、そしてタイへ。日本のカレールーも愛しつつも。
「塩」「ご飯」「麺」「蒸し物」「ジャム」「お茶」なども、その先へと突き進んでいく。
欠けたものをそのまま使っていた自分を反省して、新しいご飯土鍋、買っちゃいました。平松洋子が使っている信楽焼(38,000円!)は、さすがに手が出なかったけど。
還暦を過ぎたわたしだが、これからだって、毎日の食卓を変えていくことだってできるのだ。
韓国の旅日記も、おもしろかった! 生き蛸の躍り食いでは、口のなかじゅうを蛸の吸盤が吸いつくのだとか。食べたくない(笑)
40以上のレシピも、写真入りで載っています。茄子のグリーンカレーも、セリの卵スープも、韓国の辛ーいピビム麺も、食べたい~作ってみたい♡
平松洋子さんの本は随分読みましたが、この本はまだでした。
彼女の文章は切れがいいですね。
そう男前な文章です。
私も土鍋でご飯が炊きたいな~。
となるとカセットコンロで炊くしかないのです。
それで悩んでいます。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
*このサイトの文章および写真を、無断で使用することを禁じます。
管理人が承認するまで画面には反映されません。