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はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々

『家族じまい』

桜木紫乃の連作短編集『家族じまい』は、5人の女性たちの視点で構成されている。舞台は、北海道だ。

 

第一章 智代(ともよ)48歳 美容師パート

夫の円形脱毛症を見つけた年末、妹の乃理から電話があった。ずっと疎遠だった母サトミが、ぼけたらしい。勤めている美容室にも閉店する話が持ち上がり、いっぺんに均衡が崩れたような気持ちになる。そんな大晦日の夜、夫がドライブしようという。深い雪のなかを。

あの明かりがなければ、どこに向かって走ればいいのかわからなかったことに気づいて、足がすくんだ。一秒にも満たない、風の通り道を横切ったような気づきだった。

第二章 陽紅(ようこ)28歳 信用金庫窓口勤務

バツイチとはいえ、55歳初婚の男との縁談に戸惑っていたが、好条件が揃った契約だと割り切り結婚に踏み切った。だが夫となった男は、陽紅に触れようとしない。

「ぼくが持っているものを、すべて差し上げてもいいと思っています。どんな方法でもいいです--子供を作ってきてくれませんか。このまま子供ができなければ、あの母です、相手を代えて、と言いだすかもしれません」

しばらくは呆然としていた陽紅だが、割り切って、もと夫との逢瀬を楽しむようになる。セックスを楽しんでいれば、夫にも優しくできたし義母に対してもいい嫁でいられた。

 

第三章 乃理(のり)44歳 弁当屋パート

認知症の母と介護する父を気づかうのが普通だと考えているがゆえ、姉の智代にはもっと親身になってほしいと不満を持つ。年下の優しい夫は、両親と二世帯住宅で暮らすことにも快諾してくれた。だが、夫の優しさも正しさも、自分自身を守るための隠れ蓑、ずるさだと気づいてしまう。

徹には、乃理が女に見えなかったのだ。見えないものを無理に見ようとすれば、彼の美しい心は何かを曇らせなければならない。女に見えない理由は「嫌なのかと思っていた」という言葉に変換され、その美しい心は居場所を得る。優しすぎて美しすぎて涙が出そうだ。

やがて乃理は、酒に手を出すようになる。飲んでいれば、夫にも家族に穏やかに接することができるのだった。

 

第四章 紀和(きわ)25歳 サックス奏者

名古屋から苫小牧に向かうフェリーのディナーショーで、紀和はサックスを吹いていた。乗り合わせた老夫婦と演奏を通じて親しくなるが、妻の方は認知を患っているらしい。車を下すあいだ妻サトミと一緒に下船してくれないかと頼まれるのだが。

「最近、ときどき女房を叩いてしまうんです。彼女がすぐに忘れてしまうのが、救いなのか罰なのか、よく分からないんです。おかしな話ですよ。叩かれた方が忘れてしまっていて、叩いた方は覚えていなけりゃならないなんて。世界が逆転してしまったみたいで、これはこれで居心地悪いもんですねえ」

第五章 登美子(とみこ)82歳 年金暮らし

娘の還暦祝いにと招かれるが、印籠を渡すかのように縁切りを告げられる。途方に暮れ、妹サトミの家に向かうと、彼女は認知症がかなり進んだ状態だった。

サトミが言う楽しい思い出話を、義弟はこれから先も知ることなく過ごすのだろう。憐れみとは違う、ちいさな羨ましさが登美子の胸を通り過ぎる。同時に、この絶妙なすれ違いこそがふたりの紡いできた時間の綾なのだと腑に落ちた。

帯裏には、本文からの引用があった。

ふたりを単位にして始まった家族は、子供を産んで巣立ちを迎え、またふたりに戻る。そして、最後はひとりになって記憶も散り、家族としての役割を終える。人の世は伸びて縮む蛇腹のようだ。

蛇腹のように伸びて縮んで、幸せなのに悲しくて、笑いたいのに泣きたくて。それでも、みな生きているのだ。

第15回中央公論文芸賞受賞作。

湖に映りこんだかのような夜の街、切ない青ですね。

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PROFILE

プロフィール
水月 さえ

随筆屋。

Webライター。

1962年東京生まれ。

2000年に山梨県北杜市に移住。

2012年から随筆をかき始める。

妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。



『地球の歩き方』北杜・山梨ブログ特派員

 

*このサイトの文章および写真を、無断で使用することを禁じます。

 

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