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はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々

『影踏み』

双子の物語だが、弟の啓二はもう死んでいる。兄、真壁修一の家業は泥棒だ。7編からなる連作短編集は、修一がシャバに出てきたところから始まる。

 

空き巣を重ね警察に追われる啓二に悲観した母親が家に火を放ち、無理心中。母親と啓二は焼け死に、助けに入った父親も死亡した。

そのときから修一には、啓二の声が聞こえるようになった。中耳に啓二が棲んでいる。

 

『消息』

出所した修一は、啓二の心配をよそに女の消息を追う。

ノビカベとあだ名される修一は「ノビ師」である。空き巣ではなく家主が眠る夜中に忍び込むのが専門の泥棒だ。逮捕されるきっかけとなったのは、忍び込んだ家で眠らずにいた女の、夫への殺意だった。

〈電話台の引き出しに何があった?〉

《ああ、そういうことか》

声が弾んだ。啓二の最も得意とするところだ。

《アナログの腕時計、名刺入れ、マイルドセブン、タイピン、ボールペン、それに薄茶色の札入れ。中身は大きいのが二枚》

死んだ弟は、見たものを何でも記憶できる。修一は、啓二の得意技に助けられながら、仕事を続けていた。

 

『刻印』

顔見知りの刑事がドブ川に浮いた。泥酔状態で死因は溺死。どうやら修一が追う女と、その晩一緒にいたらしい。

稲村んちの色っぽい女房をめぐって、ここんとこお前ら二人が揉めてたって話だ。

『抱擁』

修一には、啓二ととり合った幼馴染みがいた。保育士の久子は、今でも修一を待っている。その久子の保育園で現金25万円がなくなった。修一のせいで久子が疑われていると、幼馴染みの玲子が連絡をよこす。

 

『業火』

盗人狩りの話が、同業者から流れてきた。襲われた奴はみな半殺しの目にあっている。どうやらやばいものを盗まれたやばい奴がいるらしい。

 

『使徒』

「ノビ師」にしかできないからと、サンタクロースを頼まれる。同業者の娘はひきとられた親戚の家で、冷たくあしらわれていた。

 

『遺言』

盗人狩りで重体になっていた黛が死んだ。死に際、修一を呼んでいたという。何をしてほしかったのか。羅列された遺言ともいえない言葉は、黛の父親へとつながっていた。

 

『行方』

久子がストーカーに追われていると、逃げてきた。相手は見合いした彼。いや、彼そっくりの双子の兄だった。

炭化した啓二の亡骸はちっぽけで、もはや双子の片割れではなかった。

真壁もそうなった。望んだ通り、双子の片割れではない、この世にたった一人の人間になった。だが。

一人……。独り……。それは自分の影を失うということだった。

啓二が現世の未練から真壁の裡に棲みついたのではなかった。真壁が呼んだのだ。どこにも啓二をやりたくなくて、影のない闇から逃れたくて、

優秀な泥棒の物語というのは、おもしろい。抜け目なく、ひやりとするシーンもどこか安心感がある。そのおもしろさに加え、修一と啓二のヒトとしての弱さが垣間見え、深いところまで読み進めていける。

双子の心理は理解できない部分が大きいかも知れないが、もしも自分と同じ顔をした能力もそう違わない人間がいたら、嫉妬や対抗心に苛まれるのではないか。

映画でまた、真壁たちふたりに会えると思うと、わくわくする。

山崎まさよし14年ぶりの映画主演だそうです。今年秋公開予定。

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PROFILE

プロフィール
水月

随筆屋。

Webライター。

1962年東京生まれ。

2000年に山梨県北杜市に移住。

2012年から随筆をかき始める。

妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。



『地球の歩き方』北杜・山梨ブログ特派員

 

*このサイトの文章および写真を、無断で使用することを禁じます。

 

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