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はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々

『彼女がその名を知らない鳥たち』

『彼女がその名を知らない鳥たち』(幻冬舎文庫)は、沼田まほかるの恋愛ミステリーだ。

小説の帯には「それでも、恋と呼びたかった」とあり、この秋公開される映画の予告では「あなたは、これを愛と呼べるか」とある。

 

十和子(33歳)は、陣治(48歳)と同棲しているが、8年前に別れた黒崎のことが忘れられない。忘れようとしては思い出し、忘れられないことを突き付けられる日々。嫌悪し続けている陣治と暮らしていることも、この先ふたたび黒崎とやりなおせる日を待つあいだの通過点のようにも思える。十和子は、無職の彼女を養い優しくしてくれる陣治が、心底嫌で嫌でたまらない。

陣治を傷つけたい。最も効果的にダメージを与える言葉を選びだして、陣治の心臓にまっすぐ突き立てたい。淋しいから陣治と一緒にいるのか、陣治と一緒にいるから淋しいのか、十和子にはわからない。この瞬間の自分が、陣治を拒んでいるのか求めているのか、それさえもうまくわからなくなっている。

「え、どうやの、ひとつも見せられへんの。見せられへんねやな。やっぱりそうや、陣治は男やないんや」

〈男ではない〉と言われることで陣治が二重に傷つくことを知っていて言う。陣治はT建設に入社した直後に罹ったひどいおたふく風邪の後遺症で、医者から無精子症と診断されていた。

「男やのうて、人間でものうて、そうや、あんたはなんかくねくねした色真っ黒のどじょうや。どじょう以下のどぜうや。どぜう鍋の、ど、ぜ、う。陣治は種なしどぜうや」

どっか病気の十和子。可哀そうな十和子。人非人の十和子。

「出て行ってよッ」

十和子は、陣治に依存して生きている自分を、根っこのところでは嫌悪しながらも見ようとはしない。自分は、陣治のような醜い男にだけ愛されるような女ではない。黒崎のような美しい男に愛されてしかるべき女なのだ。黒崎に騙されていたことに気づきながらも、十和子の願望がそれを認めさせない。そして同じように美しい男、水島と関係を持つようになる。また同じ夢を見るようになる。

そんなある日、刑事の訪問で5年前に黒崎が失踪したと知った。陣治のいくつかの言動から、十和子は陣治が黒崎を殺したのではないかと疑い始める。

 

タイトルについて、わたしなりに考えてみた。

十和子は、幸せというものを知らない。それは名前を知らない鳥のように存在していることだけは知っているが姿かたちはぼやけ、かすんでいる。十和子が知っている鳥は、カラスだけ。低俗で汚らしいチンケな陣治だけだ。青い鳥は、自分のすぐそばになどいない。彼女がその名を、姿かたちを知らないから、捕まえることができないのだ。

 

読んでいるあいだじゅう、苦しかった。陣治を傷つけることを止められない十和子は、すぐそばにいる。足もとに落ちた幸せを見ようとせず、飛んでいく知らない鳥ばかりを見て、あなたは隣りにいる人を傷つけていませんか?

CIMG1258来月10月28日映画『彼女がその名を知らない鳥たち』公開予定だそうです。

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PROFILE

プロフィール
2016-10-02-11-07-59-1
水月 さえ

随筆屋。

1962年東京生まれ。

2000年に山梨県北杜市に移住。

夫が営む広告会社で経理を担当。

2012年から随筆をかき始める。

 

妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。

 

随筆かきます。

依頼はメールフォームからお願いします。

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