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はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々

『未来』

20年後の未来の自分から手紙が届く。

10歳にもなっていればば、信じるはずもない。いや、まだ10歳だから、信じられるのか。章子は、その中間にいて「信じているあいだは、きっと本当になる」と思うことに決めた。

10歳の章子へ

こんにちは、章子。わたしは20年後のあなた、30歳のあなたです。

つまり、これは未来からの手紙。あなたはきっと、これは誰かのいたずらではないかと思っているはず。大好きなお父さん(あなたはパパと呼んでいましたね)をなくしたばかりのわたしをからかうなんてひどい、とおこっているかもしれません。

しかし、これは本物の未来からの手紙なのです。

うたがわれたままだと、続きを読んでもらえないかもしれないので、しょうこ品を同ふうします。

章子は10歳の冬に、愛する父を癌で亡くした。母は章子が物心ついた頃からずっと心の病を患っていて、両親ともに親戚というモノはないらしい。自分がしっかりして母を守らなくては。折れそうになる心を抱えながらも、そう自分に言い聞かせる章子のもとに、その手紙は届いた。

 

直木賞候補ノミネートされた、湊かなえ『未来』(双葉社)である。

 

章子はそれから、未来の自分へ手紙を綴っていく。

学校のこと、父への思い、母の様子などが綴られるうち、母には過去に辛い出来事があり、故郷とのつながりを絶っているのもそのせいで、心の病が根深いことなどがわかっていく。

素直で何ごとも前向きに捉えていく10歳の章子。少しずつ成長しながら、返事の来ない未来の自分へ手紙を綴っていたのだが、ある日、章子の様子が急変する。

今日も半日、押し入れの中で過ごす。明かりもともさず、音楽も流さず、暗闇の中で膝を抱えたまま横になる。パズルの本は解き終えればただのゴミ。『罪と罰』も五回読めば、本を開く意味もなし。おなかもすかない。時間もわからない。今は何時間目の授業だろうと教室を思い浮かべていたのは、いつの頃までだったのか……。

いじめ。虐待。性的暴力。それに加担する人たち。おもしろおかしく噂する人たち。そして、それを見過ごす人たち。

心を閉ざす子もいる。別人格に逃げる子もいる。ただ暴力を振るわれ続ける子もいる。自ら死を選ぶ子もいる。殺人を犯してしまう子だっている。

そんな子どもたちに、明るい未来があるなんて信じられるだろうか。

何もかも捨てて逃げればいい、と言う人がいる。だけど実際に自分が、今いる場所の何もかもを捨てて逃げることなんてできやしないだろう。

日々の暮らしの小さなことひとつが、例えば、夕飯のお米をといでおかなくちゃならない。そんなことでさえ、足枷になってしまうことがある。

 

しかし湊かなえは、希望を捨てなければ、どんな人にも、どんな子どもたちにもきっと、微かかも知れないが希望の光が見える未来があるのだということを描き切っていた。

CIMG2093薄闇を思わせる濃いグレーの表紙ですが、金に光る文字でかかれたタイトルに、少しだけ明るい未来を思い描きます。帯裏には4人の書店員の推薦文。

「未来」や「希望」や「夢」といった言葉を毎日が辛くて仕方のない人に届けるのはとても難しいけれど、それでも自分は、ペンの力で人々の背中を押し続けたい、という湊さんの覚悟、決意のようなものを感じました。(有隣堂書店/加藤泉)

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PROFILE

プロフィール
水月 さえ

随筆屋。

1962年東京生まれ。

2000年に山梨県北杜市に移住。

夫が営む広告会社で経理を担当。

2012年から随筆をかき始める。

 

妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。

 

『地球の歩き方』北杜・山梨ブログ特派員

 

随筆かきます。

 

依頼はメールフォームからお願いします。

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