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はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々

『森に眠る魚』

「お受験殺人事件」とも呼ばれた「文京区幼女殺人事件」がベースになっている。とは、朝比奈あすかによる解説から知った。1999年、2歳の女児が、母親の友人であった主婦に殺害された事件だ。

 

主役は5人の母親たち。1996年から2000年までを、代わる代わる三人称でそれぞれの目線から語られていく。

その文章は、乾いた砂が水を吸い込むようにわたしのなかに入ってきた。わたしとて、母親なのだ。

 

1996年、彼女たちは知り合った。

【繭子】怜奈(0歳)

お金があればあれもこれも買えるのに、今は雑誌を見て我慢するだけ。ママ友の子どもを預かって、お金をとるのも当然という考え方の持ち主。

【容子】一俊(2歳)引っ込み思案

人づきあいが得意じゃない分、何でも話せる特定の友人を求めている。

本当はこわかったの。幼稚園、小学校、中学高校と、いくのはこの子なのに、私自身がもう一度くり返さなくてはならないような気になっていて、前よりはずっとうまくできると思うんだけれど、それでもやっぱりこわかったの。

【千花】雄太(2歳)のびのび奔放、桃子(0歳)

自分がの持つ生活の基盤、基準を、子育てに忙しくなっても失わずにいたい。そのために家を整え、スポーツクラブにも通う。経済的余裕もそのためには重要と考える。受験は、子どもの意思を尊重したい。

【瞳】光太郎(2歳)友達思い、茜(0歳)

ボランティア活動をしていた頃のように、誰かに認めてもらいたい。小学校受験に興味はなかったのだが、巻きこまれていく。

【かおり】衿香(小学校低学年)母親の顔色をうかがう

娘の小学校受験に失敗してから、不倫が心のよりどころとなっている。

 

かおり以外の4人は、いわゆる「ママ友」で、同い年の子を持つ母親として知り合った。かおりは繭子と同じマンションに住む。幼稚園に子どもを通わせる母親たちを取材したいという話を4人に紹介したことで、つながりができる。

この人たちとなら、ユウくんママ、コウちゃんママといったよそよそしいつきあいでもなく、「ママ友」なんて一時的なつながりでもない、もっと長いつきあいができるのではないか。だれかの母とか、だれかの妻ではなく、自分自身として。

出会った頃の4人は、それぞれにそんな気持ちを抱いていた。

 

だが、取材を受け、それぞれの価値観の違いを突きつけられる。

自分の子育てを否定されたくない。認めてほしい気持ちでいっぱいだ。誰かが小学校受験するといえば、焦る気持ちも湧いてくる。

他人と比べることで人は不要な不幸を背負いこむ。学生のとき、容子はすでにそう悟っていた。それは容子のなかでまぎれもない真実だった。人は人。私は私。その線引きをしっかりさせて日々を送りたいと思っていたし、実際そうしてきた。けれど気がつけば、親しくなった人のマンションをこっそり見にいってしまうような自分がいる。

嫉妬、焦り、自己嫌悪、そしてなにより子育ての不安に苛まれていく。価値観は違っても、みなが同じ森をさまよっているかのようだ。

終盤、5人すべてが「彼女」と名を変え語られる。誰が誰でもおかしくない心の闇が「彼女」たちを捉え、がんじがらめにしていく。そして考えてしまう。彼女さえいなければ。彼女の子どもさえいなければ。ここから抜け出せるのに、と。

 

2000年。上の子たちは、小学校へ上がる。物語はそこまでだ。だがそこからもずっとずっと続いていくことを、みな知っている。命からがら森を抜けても、そこは次の森の入口なのだ。

一歩踏み出したら戻れない。そんな森の入口を描いたような表紙です。

COMMENT

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  1. hanamomo より:

    1999年のこの事件覚えています。
    私も読みたくて注文しました。
    当時、母の実家の孫が殺されたこどもと同じ名前だったので特に印象深かったのです。
    お子さんを殺された母親も悪かったのではないかとマスコミが報道し問題になりましたね。
    >命からがら森を抜けても、そこは次の森の入口なのだ。
    そうですね。そのとおりです。

    公園デビューという言葉も違和感があります。
    どうも育児雑誌が作った言葉と聞いた事があります。
    言葉ってこういう風にして、あたりまえの顔をして居座るんだな~と思いました。

    少なくとも我が家の子ども達が赤ちゃんだった1980年代中ごろはなかった言葉でした。
    いい本をご紹介くださりありがとう。

    • さえ より:

      hanamomoさん
      わたしは事件のこと、うすぼんやりとしか覚えていませんでした。
      世間やマスコミは、言いたい放題ですね。
      この小説は、誰も悪い人は出てきません。だけど、いつ事件に発展してもおかしくないような怖さが描かれています。
      興味深い小説だったので、ぜひ読んでみてください。
      「公園デビュー」そうですね。
      雑誌が作った言葉だったんですか。
      毎年流行語大賞が選ばれますが、言葉の持つ力って、言いだした人の考えが及ばないところまで向かっていきますよね。

PROFILE

プロフィール
水月 さえ

随筆屋。

1962年東京生まれ。

2000年に山梨県北杜市に移住。

夫が営む広告会社で経理を担当。

2012年から随筆をかき始める。

 

妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。

 

『地球の歩き方』北杜・山梨ブログ特派員

 

随筆かきます。

 

依頼はメールフォームからお願いします。

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