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はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々

『犯罪小説集』

映画『楽園』の原作であるこの本は、5作からなる短編集だ。

帯には「人はなぜ、罪を犯すのか」とある。

 

1話『青田Y字路(あおたのわいじろ)』

片田舎。田園に囲まれた一本道が分かれるY字路で、少女愛華が消息を絶った。十年が経ち、ふたたび小学生が帰らないという事件が起こり、周囲は騒然となる。「あいつがやったのではないか」とみなが思っていた。愛華のときにも疑われたハーフの男を、誰もが狂ったように追い始める。

 

2話『曼珠姫午睡(まんじゅひめのごすい)』

ゆう子は、人一倍あか抜けない同級生だった。それが痴情のもつれで殺人を犯したと知り、英里子の胸はざわつく。傍から見ると幸せな主婦に見えるかも知れないが、もう夫との性交渉は十年以上ない。夫と寝たいとも思わない。なのにあのダサいゆう子は、どうやら色恋だらけの人生を送ってきたらしい。

中学のとき、ゆう子と対戦したテニスの光景が浮かんでくる。

違っていたのかも知れないと、ふと英里子は思う。

あのとき男の子たちはみんな、ゆう子を笑い、自分を応援してくれていると思っていた。でも、実際には逆だったのではないだろうか。男の子たちは、あのドタドタと走り回り、大きくラケットを振るたびに、体操着がはだけて脂肪のついた腹を出していたゆう子に、興奮していたのではないだろうか。

3話『百家楽餓鬼(ばからがき)』

御曹司の永尾は、気分転換に始めたはずのカジノ賭博に狂う。妻は、アフリカの難民キャンプでボランティア。生き生きと働いている。永尾はいつしか歯止めが利かなくなり、破産寸前まで落ちていく。

 

4話『万屋善次郎(よろずやぜんじろう)』

限界集落。老人ばかりの世帯のなか、善次郎は頼られていた。妻に先立たれ自分も62歳だが、率先して草刈りや雑用を引き受けていた。だが、村おこしにと善次郎が始めた養蜂の話がこじれ、村八分にされるようになる。

 

5話『白球白蛇伝(はっきゅうはくじゃでん)』

運送業を営む田所は、プロ野球投手、早崎のファンだった。偶然スナックで逢ったとき、早崎は引退していたがふたりは意気投合。それからよく飲みに行くようになるが、早崎の金の使い方は半端じゃなかった。もと女子アナの妻と息子の生活もきらびやかだ。やがて金に困った早崎は、田所にも借金するようになる。

「遊興費って何ですか?」田所は呆れ果てた。

「お前だって知ってるだろ? なんていうか、仲間を連れて飲みいったり……」

「金ないんなら奢る必要ないでしょ?」

「いや、だって相手が後輩とかだとさ、さすがに割り勘ってわけにもいかねえだろ?」

「いやいや、金ないんでしょう?」

映画『楽園』監督・脚本の瀬々敬久が、解説に「ワイドショー」という言葉を使い、かいている。

登場人物たちはそこ(ワイドショー)で扱われ、社会的人間へと変貌し、あるいは、そこで事件を見た人は、逆に犯罪に魅了されたかの如く境界地へと冒険の旅に出ようとする。

たしかに読んでいて、登場人物たちを俯瞰しているかのような味わいがあった。行ってはいけない方へ方へと転んでいく姿を追い、目が離せなくなる。

実在する事件をモデルとしたとも言われるこの5作に見られるものは「悪意」ではなく、流され行き場を失くしたものの圧倒的な「弱さ」だった。

「人はなぜ、罪を犯すのか」

それを知りたい気持ちと、覗きこんだら同じ場所へと落ちていきそうな怖さが、この小説集にはある。

映画は10月18日公開予定。出演は、綾野剛、杉咲花、佐藤浩市。楽しみ~

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PROFILE

プロフィール
水月 さえ

随筆屋。

1962年東京生まれ。

2000年に山梨県北杜市に移住。

夫が営む広告会社で経理を担当。

2012年から随筆をかき始める。

妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。

『地球の歩き方』北杜・山梨ブログ特派員

 

随筆かきます。

 

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I answer only Japanese.

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