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はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々

『甘いお菓子は食べません』

タイトルに魅かれた。

わたし自身、甘いお菓子が食べられず、そのことに小さなコンプレックスを抱いているからだ。この小説集は、妻であることに、あるいは妻ではないことに、母であることに、また母でないことに、そして女であることにさえ、コンプレックスを抱いている女性たちの物語だった。

田中兆子の初の単行本『甘いお菓子は食べません』(新潮文庫)は、「女による女のためのR‐18文学賞大賞」を受賞した『べしみ』を含む6篇から成る連作短編集。帯には「妻として、母として、女として、不完全。」とある。それぞれの物語の主人公は、すべて40代の女性だ。

 

『結婚について私たちが語ること、語らないこと』

べし子(41歳、独身)は、高級ゴルフ倶楽部のキャディー。職場の忘年会で「結婚どうするの? したいの、したくないの?」と問いただされ、返事に困り「いい人紹介してください」と土下座した。

「したい」と言えば、その顔とその年でよく言うわという雰囲気を醸し出しつつ、それなら外見をもっとかまえ、低収入でも子持ちでも年寄りでも選り好みしてはいけない、とお決まりの説教をまくし立て、「したくない」と言えば、無理しちゃってという内心を隠しもせず、年取ったら一人は寂しいし万が一孤独死したらみじめじゃない、となおさら落ち込むようなことをすらすらと並べるのだ。

『花車』

夫の突然の告白に、武子(46歳)は戸惑い、セックスを斡旋してくれるところに会員登録する。

「頼む……僕はもうセックスしたくないんだ」

『母にならなくてもいい』

香穂(47歳、独身バツイチ)は、母を突然亡くす。仕事と猫が中心の生活。だが、そのなかに居座り続けているのは「母になれなかった自分」だ。

あたしは人を育てるのに向いていないのではないか――それは長い間、胸のなかにくすぶっている。

『残欠』

42歳主婦は、夏目漱石の小説『坊っちゃん』の清に近づこうと、手作りのハタキで掃除し、中2の息子には手作りのおやつを用意する。

夫への怒りがあるとすれば、夫の態度や夫自身のことであって、浮気のことではなかったはずだ。こんな言い方をすれば、浮気で怒っていると思われてしまう。そんなことで怒りたくないのだ。夫が夫なりのやり方で妻を愛してくれているのはじゅうぶんすぎるほどわかっている。もっと妻を愛して欲しい、そういうことではないのだ。

『熊沢亜理紗、公園でへらべったくなってみました』

49歳でリストラされた熊沢は、公園でうつぶせになって眠るようになる。

熊沢は、公園でへらべったくなって、自分というものが一枚の紙のように薄くなったのだと思っていた。でもそうではなくて、硬く厚みのあった自分が伸されて折りたたまれてたくさんの隙間ができ、そこにいろんな人たちの言葉や存在が常に流れ込み、層のように溶け込んでいる、それが自分というものであるような気がした。

『べしみ』

あるときから突然強い性欲に駆られるようになった40歳独身女性の苦しみ。

世の中にいる中年の、老年の、男に縁のない女たち、ずっとセックスしていない女たちに問いかける。

ねえ、こういう性欲に襲われた人もいるでしょう? そしたら、どうしてたの? ただ我慢したの? 男みたいに金で解決したの? 元恋人とか、知り合いのなかから、この人なら大丈夫っていう人に自分からアプローチしたの?

読み終えて、思う。

不完全で、当たり前。完全って何? そんなのあり得ない。

なのにそう思えずに苦しみながらどうにかこうにか受け入れているものが、妻だったり、母だったり、女だったりするのだろう。それらにコンプレックスを抱いていない女性など、たぶんいないのだ。

このあいだ、夢のなかで末娘に言われた。

「お母さん、そんなんで幸せなの?」

完全な幸せなんて、ないんだよ。夢のなかで、そう答えればよかった。

CIMG9346山本文緒のおススメ文が、胸に響きました。

解説は、劇作家で音楽家のケラリーノ・サンドロヴィッチ。

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PROFILE

プロフィール
水月 さえ

随筆屋。

1962年東京生まれ。

2000年に山梨県北杜市に移住。

夫が営む広告会社で経理を担当。

2012年から随筆をかき始める。

 

妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。

 

『地球の歩き方』北杜・山梨ブログ特派員

 

随筆かきます。

 

依頼はメールフォームからお願いします。

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