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はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々

ドラマ『人質の朗読会』

小川洋子の連作短編集『人質の朗読会』は、胸に残る小説だった。

ふと思い出して、オンデマンドでドラマを観た。

監督【原口正晃】(2014年放送)

〈cast〉ラジオ局報道記者 中原誠一【佐藤隆太】

人質 平澤咲子【大谷直子】高橋聡子【原日出子】倉木祥子【鷲尾真知子】

   堂島裕【長谷川朝晴】平田良平【阿南健治】江藤高広【三浦貴大】

遺族 平澤ひとみ【波留】堂島祥子【西田尚美】

 

南米のある国で起こったテロ事件で、旅行中の日本人6人が人質となり全員死亡した。人質にとられた彼らの声を盗聴したテープが、遺族のもとに届いた。

それは、彼ら6人がそれぞれ自分語りをする「朗読会」の様子だった。

 

『やまびこビスケット』61歳女性・調理師専門学校教授

アルファベットビスケットの工場で働いていた若い頃、偏屈な大家さんとビスケットを通じて交流した様子を語る。

 

小説を読み終えたときには、この朗読がいちばん好きだった。

以前かいた感想は、こちら『人質の朗読会』

 

『B談話室』42歳男性・小説家

公民館の様々な集会に会員でもないのに顔を出すようになり、まるでそれぞれの集会の仲間のように振る舞い、嘘をつき続けた自分を語る。

 

ドラマで観ると、この朗読がいちばん好きだった。このくだりだ。

世界のあらゆる場所にB談話室はある。あらゆる種類の会合が開かれている。ささやかなつながりを持つ者たちがほんの数人、そこへ集まってくる。その他大勢の人々にとってはさほど重要でっもない事がらが、B談話室ではひととき、この上もなく大事に扱われる。会員たちはB談話室でこそ、真に笑ったり泣いたり感嘆したりできる。

『死んだおばあさん』48歳女性・主婦

なぜか「死んだおばあさん」に似ていると言われ、何人もの見知らぬ人に「死んだおばあさん」の話を聞かされた奇妙な運命を語る。

 

『コンソメスープ名人』49歳男性・精密機械工場経営者

子どもの頃留守番をしていて、隣りの女性が台所を貸してくれと言い、牛肉や野菜を刻むところからコンソメスープを作った記憶を語る。

 

『花束』28歳男性・ツアーガイド

バイトを辞めるときに分不相応の大きな花束をもらい、道路に飾られた枯れた花を見て、投身自殺した女性を思い出したことを語る。

 

『槍投げの青年』59歳女性・貿易会社事務員

通勤途中に見かけた細長い筒状の荷物を持つ青年。跡をつけると、彼は競技場で槍投げの練習を始めた。その一部始終と独りで生きることについて語る。

 

小説では最終章となる『ハキリアリ』は、政府軍兵士(22歳)によるもので、彼は葉を一心に運ぶハキリアリの真摯さに似たものを言葉の壁を超え感じとり、盗聴テープを遺族へ渡すことを決意した。その彼の言葉は、死と背中合わせにあった人質たちが、どのように今というときを生きたかを語っていた。

各々、自らの体には明らかに余るものを揚げながら、苦心するそぶりは微塵も見せず、むしろ、いえ平気です、どうぞご心配なく、とでもいうように進んでいく。余所見をしたり、自慢げにしたり、誰かを出し抜いたりしようとするものはいない。これが当然の役目であると、皆がよく知っている。木々に閉ざされた森の奥を、緑の小川は物音も立てず、ひとときも休まず流れていく。自分が背負うべき供物を、定められた一点へと運ぶ。

そのようにして人質は自分たちの物語を朗読した。

『槍投げの青年』を語った女性が、窓枠に詩を見つけ、自分のなかの記憶というものを見つめるシーンが好きだった。

記憶は ひんやりした流れの中に立って

糸を静かに投げ入れ 釣り上げては

流れの中へまた 放すがいい

(アーサー・ビナード『釣り上げては』より)

 

人質となり、命さえもあきらめざるを得ない境地に置かれた彼らが、自らを語るという目標ができたことで、生き生きとした表情を取り戻していくさまに、生きる意味のようなものを垣間見た気がした。

CIMG0965ずいぶん昔に読んだのに、ドラマを観るとどの朗読の内容もすぐに思い出せました。小説にはあと2つ『杖』『冬眠中のヤマネ』があります。

CIMG0972小川洋子の文庫本、けっこう持っていました。ほかにも図書館で借りて読んだ小説もいくつかあります。

COMMENT

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  1. 悠里 より:

    おはようございます‼
    やはり、さえさんは沢山の本の中で生活していますね。多忙でありながら、読書と執筆は留まる事なく、さえさんと共にある、一番の友人なんですよね。

    本が好きで、昔はよく楽しんでいました。
    今は、幾つかの展覧会に向けて書道に携わり、その間をぬって手芸をするのが、精一杯の私です。

    また、好きな作家さんの本が、好きな時に楽しめる時間が来るのを待ちながら、今日も書道かしら?

    • さえ より:

      悠里さん
      こんにちは~♩
      本を読むのは、ほんとうに楽しくて、気分転換にもなるし、いちばんの友人っていう言葉がぴったりくるかも知れませんね。
      悠里さんは、多趣味でいつも好奇心を持っていろいろなことをしていて、尊敬します。
      書道の展覧会、いくつもされるんですね。
      手芸も書道も、センスがあるのがうらやましいです。
      書道の展覧会、がんばってください。

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PROFILE

プロフィール
2016-10-02-11-07-59-1
水月 さえ

随筆屋。

1962年東京生まれ。

2000年に山梨県北杜市に移住。

夫が営む広告会社で経理を担当。

2012年から随筆をかき始める。

 

妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。

 

『地球の歩き方』北杜・山梨ブログ特派員

 

随筆かきます。

 

依頼はメールフォームからお願いします。

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