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はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々

『かけらのかたち』

「マウントをとる」という言葉を知ったのは、何年前のことだったか。

「職場にマウントとる奴がいてさ」

娘から聞いた初耳の言葉だった。

「お山の大将的な奴のこと?」

マウント=マウンテン?

「まあ、そんな感じ」

その会話からずっと勘違いしていたのだが、マウントとは「動物が弱い個体に馬乗りになり、自分の優位を示す行為」だそうだ。

女性同士の壮絶な「格づけ合戦」がドラマが人気となって「マウンティング女子」が流行語大賞にノミネートされたのは2014年だというから、その頃に生まれた言葉なのだろう。

 

深沢潮の連作短編集『かけらのかたち』は、40代半ばを過ぎた現在も毎年鍋パーティに集う、もと大学のテニスサークル仲間とその周辺の人たちを描いている。軸となっている料理研究家、優子を筆頭に「マウンティング女子」が顔をのぞかせていた。

 

「マドンナとガガ」

サークル仲間でバツイチの健介と結婚したばかりの20歳年下の妻、梨奈の視点。

呼ばれもしない鍋パーティにSNSを見て勝手にやってきた優子は、梨奈を見て言う。

「ほっそーい。子供産むの、大変そう」

「アドバンテージ フォー」

サークル仲間の女子会ランチ。

子供のいない出版社勤務の朱里(あかり)の視点。

あからさまに子供自慢をする知恵。シングルマザーの恭子。噂話が大好きな紀香。果たして勝ったのは?

 

「かけらのかたち」

サークル仲間、和彦と同年代の妻、志津子の視点。不妊治療の末、心のバランスを崩し通院中の彼女に、心ない紀香の言葉が突き刺さる。

「子どもがいない夫婦って、なにを支えに一緒に生きていくのかなあ」

「ミ・キュイ」

優子のママ友「美魔女軍団」と呼ばれるなかのひとり、亜希の視点。

雑誌の取材に来た紀香の挑発にも、優子はめげる気配もない。

「誰に対して綺麗でいたいの? 自分? それとも、他人? つまりは異性? 旦那さんや子どもに対して? ママ友のあいだで?」

「全部に決まってるじゃない」

「まーくんとふたごと」

健介のもと妻、晴美のひと回り年下の夫の視点。

三歳児の双子育児は、半分以上、社長でもある夫が担っていた。イクメンの取材を朱里がすることになったが。

 

「マミィ」

優子の娘、安奈の視点。

アメリカの全寮制の高校ももうすぐ卒業。プロフ(卒業パーティ)に出るために気が進まないアダムの告白にOKしてしまう。大好きなマミィ(優子)に嘘をついてしまったが、アダムは中国人で、マミィがアジア系移民族に差別意識を持っているのも気がかりだった。

 

同じ既婚者にしても、パートナーが若かったり年上だったり、セレブだったり節約生活だったり、子供がいたりいなかったり、その子供が高学歴だったりスポーツ万能だったり、夫がイクメンだったり家事にはまったくタッチしなかったり、などなど。

よその家庭と比べたら、キリがない。

それでも、比べてしまい葛藤する。

幸せ自慢に胸をかきむしられ、それでも自己肯定して生きていくしかない。

「ミ・キュイ」で、アラ還の女性が亜希に言った言葉が、胸に残った。

「源氏物語の時代も、いまも、人からどう見られたいかではなく、自分がどうありたいか、その美意識につきるのかもしれない。とくに五十、六十と年齢がいってからは」

深沢潮は、第11回「女による女のためのR-18文学賞」大賞受賞の作家です。

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PROFILE

プロフィール
水月

随筆屋。

Webライター。

1962年東京生まれ。

2000年に山梨県北杜市に移住。

2012年から随筆をかき始める。

妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。



『地球の歩き方』北杜・山梨ブログ特派員

 

*このサイトの文章および写真を、無断で使用することを禁じます。

 

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