引き続き、若竹七海のミステリー、女探偵葉村晶シリーズを読んでいる。葉村晶に恋してるっいうくらいもう夢中だ。
長編『さよならの手口』(文芸春秋)は、前作から10余年が過ぎた現代。晶は40代になり、探偵を休業してミステリ専門の古本屋でバイトしていた。
前作『悪いうさぎ』では、刺されて踏まれ足の骨にひびが入り、そのうえ監禁されるという不運が降りかかったが、今回も最初から古書を回収しに行った家の床板を踏み抜き肋骨を2本折ったうえ、床下に埋められていた骸骨と頭突きするはめに。これは単なる不運のプロローグに過ぎず、入院中、同室になった元女優の老女から、20年前に行方不明になった娘を探してほしいと依頼を受ける。
「葉村さん。あなたはいま、ツキってものをお持ちです。白骨死体を見つけ誰にも知られずに犯罪を暴いた。わたくし、そのツキに賭けるつもりでおりますの」
このツキが、晶のさらなる不運の始まりだったのだが。
以下、本文から晶語録。
こういうタイプは自分のやることをすでに決めていて、それ以外のアドバイスに腹を立てる。かといって、本人の望み通りの答えを出してあげたとしても、その結果がうまくいかなければ「あなたにああ言われたからそうしたのに」と他人のせいにする。世界の平和を望むなら、アドバイスなどしないに限る。
この刑事、意外に話が長い。友だちがいないのかも知れない。
人間関係と書いて〈りふじん〉と読む。犯罪に加担しているかもしれない知り合いのために、頭を下げることもあり、殺人犯かもしれない人間に、命を救われることもあり。
わたしのような古風な人間にとって、シェフと医者はメタボのほうが安心できる。とはいえこれが「女性に人気だった」シェフの生れの果てか、と思うと悲しいものがある。
へりくだりながら一歩も譲らず相手をたたきのめす。パーフェクトなマニュアル対応に完敗し、新しいスマホを買って帰った。
えらいもので、部署たらい回しで責任逃れと言えなくもない態度をとりながら、実に愛想がいい。無責任を感じよくご呈示する社会。ときどき、暴れたくなる。
などなどである。次の短編集『静かな炎天』の解説(大矢博子)に、かかれていた。葉村晶の魅力は、ワイズラック。洒落た減らず口のことだそうだ。
晶は、ワイズラックを武器に(?)不運の嵐をやり過ごしていくのだった。
さよならの方法は、いく通りもある。それを手口と言い換えなくてはならなくなったとき、犯罪との一線を超えたということになるのだろう。
人と人は心でつながることができる分、その心が果てしなく伸びる蔦のように絡まり、絡め、絡み合い、気づいたときにはさよならの方法を失っていることがある。それを丁寧にほどいていくか、絡み捕られないところまで逃げるか、根っこから断ち切るか。
もしあなたが今、さよならの方法を考えているとしたら、アドバイスはひとつ。ゆめゆめ、手口と言い換えなくてはならない方法を選ぶことなかれ。
巻末には、ミステリ専門店〈MURDER BEAR BOOKSHOP〉店長、富山さんの小説に出てきた30作品を超えるミステリ小説紹介つき。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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