白い、白い本だった。
『すべての、白いものたちの』の原題は『흰』白い、という意味だそうだ。
アジア唯一の国際ブッカー賞に輝いた韓国人女流作家の小説だ。
シミルボンサイトで岡田羊さんが「破壊の記憶と再生への祈りが綴られた作品」と紹介していて、読んでみたくなった。
ドア おくるみ 産着 タルトック 霧 白い街
いくつもの白いものについて綴られた短文が並ぶこの本の根底には、生まれてからたったの2時間で息をしなくなった姉の死がある。
22歳だった母親は、言葉がわかるはずもない赤ん坊に「しなないで しなないでおねがい」と繰り返したという。
第一章「私」は、作家〈私〉の視点で描かれている。舞台は、異国ポーランドのワルシャワだ。ところどころにソウルでの回想が散りばめられている。
第二章「彼女」は、もし姉が生きていて自分の身体から世界を観ていたら、という想定で綴られている。
第三章「すべての、白いものたちの」はふたたび〈私〉視点に戻る。ソウルに帰国し、エピローグのような趣きだ。
目に見えるものから見えないものまでも深く見つめる心の目を持ち、選び抜かれた言葉で綴られた白い言葉たちには、驚きが詰まっていた。
たとえば、「彼女」の〈霜〉から。
霜が降り始めるころから、陽の光は少し青みを帯びてくる。人々の口から白い息が漏れてくる。木々は葉を落としてしだいに軽くなる。石や建物など固いものたちは、微妙に重くなったように見える。コートを取り出して着込んだ男たちと、女たちの後ろ姿に、何ごとかに耐えはじめるとき人々が黙々と胸にたたみこむ予感が、にじんで見える。
あるいは、「彼女」の〈レースのカーテン〉から。
洗い上げてきっぱりと乾いた白い枕カバーとふとんカバーが、何ごとか話しているように感じることがある。そこに彼女の肌が触れるとき、純綿の白い布は語りかけてくるかのよう。あなたは大切な人であり、あなたは清潔な眠りに守られるべきで、あなたが生きていることは恥ではないと。
生きることについて、描かれた本である。
生まれてすぐに亡くなった姉にあたたかい血が流れる身体を贈りたいなら、自分があたたかい身体を携えて生きていなければならないと、あとがきにあった。
本は、いろいろな白い紙で作られていました。それぞれ手触りが違って、ページをめくることが新鮮で楽しかったです。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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