手にとったのは、安田顕主演でドラマ化されると知ったからだ。
そのうえ気軽に読めるミステリー短編集。それも本格ミステリーだ。
時計屋にも魅かれた。昔ながらの商店街にある古びた時計屋。それだけでもう、タイムトリップが成立しそうな場所である。
しかしそこに眼鏡をかけた老人はいない。
アリバイ崩しを承るのは、20代の髪をボブにカットした女性、時乃だ。
そこに捜査一課に配属されたばかりの新人刑事が通うようになる。こんな年下の女の子に頼るのは、と自分をふがいなく思いながらも切羽詰まって扉を開けてしまう。
安楽椅子探偵である時乃は、彼の話を聞き微笑む。
「時を戻すことができました。アリバイは崩れました」
短編は7つ。
拳銃がポストに入っていたり、雪山山荘の密室もあり、自白し死んでいった死者のアリバイが見つかったり、夢遊病癖の容疑者が出て来たり。時乃が小学生の頃祖父から出題されたアリバイ崩しもある。
そのどれもが、トリックを時乃が解くたびに唸らざるを得ない。おもしろかった。
古い時計屋を探しに、どこにでもあるような、けれど決してどこにもない商店街を歩いてみたくなる。
ドアを開け、もしも「アリバイ崩し承ります」と貼り紙があったら、誰のアリバイを崩してもらおうか。
「時を戻すことができました」と、時乃は微笑んでくれるだろうか。
テレ朝のドラマは、小説とはかなり雰囲気が違うものに仕上がっていました。安田顕演じる主人公は、新人ではなくアリバイ崩しが苦手な管理官だし、時乃はきゃぴきゃぴしてるし、時計屋が主人公の下宿先になっているし。エンターテイメント性豊かに、様々な層の視聴者が楽しめるように作られています。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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