奥田英朗の『ガール』を再読した。
5年ぶりだが、再読なのに一気読みだ。素晴らしい短編集だった。
第1話「ヒロくん」
入社14年目36歳で課長になった聖子は、年上の部下を持て余していた。
部長の木原に訴えるも、逆に男を立てろという。
「男をたててやれよ。男なんて単純だぜ。あなただけが頼りなの、なんて目をすれば、しゃかりきになって頑張るものさ」
耳を疑った。木原は今井を叱責するどころか、自分を懐柔しようとしている。
「そのお言葉には意義があります。どうして男だけ立てなければならないんですか?」
第2話「マンション」
ゆかりは34歳独身、恋人なし。マンションを買うことを宣言すると、男性の同僚たちが急にフレンドリーになった。
「ともに会社に骨を埋めましょう」桜井がうれしそうに言う。
なるほど、男たちは所帯を持ち、家を建て、ローンを抱えることで連帯感を深め合っているのか。会社に縛られて一人前なのだ。
第3話「ガール」
広告代理店勤務の由紀子は32歳。可愛い服やおしゃれが大好きだ。先輩のお光は38歳だが、さらに可愛い系。だが20代男子の陰口を聞いてしまう。
「おれさあ、光山のおばさんにチーク誘われちゃったよ」
どきりとした。その場に立ち尽くした。
「踊ってやれよ。若いつもりなんだから」誰かが茶々を入れる。
「あの人、三十八だろう? あの若作りもどうかと思うなあ。真っ赤なミニスカートなんか履いちゃって」
「あれはオーケーかな。一回くらいなら」
「よっ、おばさんマニア」
第4話「ワーキング・マザー」
バツイチの孝子は32歳。息子が小学校に入学するのを機に営業部へ戻ることにした。息子とふたり暮らしの彼女を職場のみんなは気づかうが、孝子は特別扱いされたくない。
「平井さんって立派だなあ、育児を錦の御旗にしないから」
「錦の御旗って?」
「会社で女の人に育児を持ち出されたら、周りは何も言えなくなるじゃないですか。とくに出産を経験してない女性は、口さえはさめないようなところがあるし」
しかし、とうとう振ってしまう。錦の御旗を。
第5話「ひと回り」
容子は34歳、独身、恋人なし。ひと回り年下の新入社員男子の教育係になった。彼は、長身ハンサムの容子好み。容子は動揺を隠せない。
合コン依存症--か。容子は一人苦笑した。そういうことなら、うちの会社の三十代にもたくさんいる。里美だってその口だ。出会いを求めているというより、同類がたくさんいることに安心したがっている。
みんな、悩んでるんだな。
そして、みんな、がんばってるんだ。
そう思える1冊。
疲れているとき、元気がでる短編集である。
帯には「すべての女性に『これって、私のこと!』と言わしめた爽快ベストセラー」とあります。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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