山本文緒の短編集『シュガーレス・ラヴ』を、紹介しよう。
10話の短編には、すべて病名のような身体の不調を訴えるサブタイトルが添えてある。裏表紙の紹介文。
現代女性をとりまくストレス・シンドロームと、それに立ち向かい、再生する姿を描く
「彼女の冷蔵庫」骨粗鬆症
25歳の義理の娘が正座しただけで両足首を骨折した。骨粗鬆症。いったい何を食べているのか。
「ご清潔な不倫」アトピー性皮膚炎
ある日、夫は朝になっても帰って来なかった。そしてその晩になっても、また次の朝が来ても、彼はこの部屋に戻らなかった。心配した私は、夫の会社に電話を掛けた。電話口に出た夫はあっさりこう言ったのだ。しばらく別居しようよ、お前の病気が治ったら帰るからと。
結婚後、突然アトピー性皮膚炎を発症した〈私〉は、夫に捨てられる。
「観賞用美人」便秘
ベッドを共にした翌日から、彼女はひどく冷たくなった。
「いるか療法」突発性難聴
耳が聞こえにくくなり、教師を辞めた〈私〉は、水族館に通う。
「ねむらぬテレフォン」睡眠障害
どうして泣いているのか、よく分からなかった。
好きなのに。剛も家族も会社の人たちも。好きでやっていることなのに。剛を待つことも、家族と暮らすことも、会社に行って働くことも。
好きなのに、つらい。何故矛盾するのか分からない。何故目が覚めてしまうのか分からない。
「月も見ていない」生理痛
月経前症候群の〈私〉は、スタンガンを購入した。
「夏の空色」アルコール依存症
県下一の進学校に通う女子高生の〈私〉は、酒がやめられない。
「秤の上の小さな子供」肥満
再会した美波をプールに誘った柊子は、呆然とする。なぜ美人でもない肥満体の美波は男たちにモテるのか。
「過剰愛情失調症」自律神経失調症
「親の押しつけがましい愛情からやっと逃れて、恋人もできたみたいで私は安心してた。でもそのとたんに、もっと具合が悪くなったのはどうしてだと思う?」
〈僕〉が愛すれば愛するほどに、まりこは体調を崩していく。
「シュガーレス・ラヴ」味覚異常
フードコーディネートの〈私〉は、食べ物の味が感じられなくなってしまう。
心も身体も、思うようにならないだけではなく、その見えない変化やどうしようもない辛さは、近しい人にもわからない。わかってもらうことができないことがまた辛く、追い詰められていく。
登場するのは若い女性たちだが、歳を重ねたわたしたちもさらに違った不調を抱え続けていく。
生きていくことは、甘いばかりじゃない。
2000年に発売された文庫を、2005年に購入していました。
大好きな山本文緒の短編集たちです。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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