『ガール』に続き、奥田英朗を再読した。
対となる2冊の短編集は、『ガール』は女性目線なら、『マドンナ』は男性目線で描かれている。主人公はみな40代男性で課長だ。
第1話「マドンナ」
課長の春彦42歳は、胸を躍らせながらも不安に苛まれた。移動してきた倉田知美26歳が、まずいことに好みのタイプだったからだ。
春彦は結婚して十五年になる。その間三回、部下の女を好きになった。ただし一度も関係を持ったことはない。春彦の場合、いい子だなと思った瞬間から夢想が始まる。頭の中で恋愛物語を楽しむ。ただそれだけだ。
第2話「ダンス」
高2の息子が、大学へ行かない、ヒップアップダンサーになると言いだした。46歳で大手食品会社課長の芳雄は自分を否定されたような気持ちになる。社内では飯島部長と部長に与しない同期の課長浅野が悩みの種だった。そんななかでの社内運動会。
「いいよ、おまえはやらなくて」不意にそんな言葉が出た。浅野の阿波踊りなんて見たくない。さっきの騎馬戦の馬役で充分だ。
「いいとはなんだ。どうしておまえが決める」飯島がにらんだ。
「だから、ほら、誰がやっても一緒ですから」
「一緒ってことがあるか」胸をつつかれた。
「暴力はいけませんよ」
つい、つつきかえす。そうしてしまった自分に驚く。
「おろ? なんだ貴様、上司に向かって」再び胸をつつかれた。
「いや、だから、あんたもしつこいね」つつきかえす。
第3話「総務は女房」
営業一筋だった44歳の博史は、総務に移動になった。営業局長候補はいったん現場を離れるのが会社の慣わしで、昇進への道筋だ。そこで業者との癒着を見つけてしまった。
「おれは堅物じゃないよ。でもな、悪いがおれは江戸っ子だ。しみったれた真似が死ぬほど嫌いなんだよ」
「まあ、5階から来た人には、実にしみったれた世界だと思いますけど」
「裏金作りは伝統か」
「ぼくが来たときにはすでに……」
「年間いくらで何に遣ってる」
「勘弁してくださいよ。課長は腰かけでしょうけど、ぼくは………」
第4話「ボス」
44歳の成徳と同い年の女部長が配属された。海外勤務が長い陽子は、残業体質を改め休日ゴルフなどの勤務時間外のつき合いをなくすよう改革を始める。
「せめて部内の意見を聞いてからにしてはどうですか。あまりに一方的でしょう」
「いいえ。こういう改革は行革と同じで、トップの断行が必要なんです」
「じゃあ個人の自由に任せればいいじゃないですか。休日接待が嫌だという者はそうすればいい」
「それはさっき言いました。部下は上司の誘いを断れないのです。人の話はちゃんと聞いててください」
第5話「パティオ」
45歳の信久は、オフィスのある7階からパティオと呼ばれる中庭を見下ろす癖があった。そこに毎日現れる老人が気になり始める。妻を亡くし田舎で一人暮らす父といつのまにか重ねていた。
「いつもこの下にいらっしゃいますね」
信久が藤棚を顎でしゃくり、そう言うと、おひょいさんの表情に小さく影が差した。
その顔を見て、信久はしまったと後悔した。余計なお世話だった。過ぎた干渉だった。なのに動揺したせいでもっと余計なことを言っていた。
「わたし、そのビルの7階に勤めているんですけどね。毎日お見掛けするものですから」
『ガール』読んだときと同じく、男性陣もみんな悩んでるし、みんながんばってるなあと思う。
毎日は、好きでやりたいことばかりじゃない。
それは、どこにいても男でも女でも同じことだ。
それでも、生きてくしかないもんね。
表紙絵も、男性目線から見て好感度が高い女性のような気がします。
『ガール』の表紙絵は、女性から見てかっこいい感じ。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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