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はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々

『世にも奇妙な君物語』

「オチがすごい!」と黄色に赤文字で大きく描かれた帯の下品さに魅かれ手にしたのは、もちろん朝井リョウだったからに他ならない。

直木賞受賞作『何者』は、信頼に値する作家だと教えてくれた。

 

しかし『何者』のシリアスさとは裏腹に、この短編集『世にも奇妙な君物語』は、フジテレビで放映されていた『世にも奇妙な物語』ファンだった朝井リョウが「勝手に原作」をかきたいと心から楽しんで執筆したものらしい。ここでは「シリアスな部分」よりも、「奇妙さ」「オチのすごさ」が優先され、それを楽しむための小説となっている。2時間で5つのドラマを、に則り5編の短編に仕上げたというから、どれだけ『世にも奇妙な物語』が好きだったのかがうかがえる。

 

第1話『シェアハウさない』

ライターの浩子は、シェアハウスの記事をかく企画が通り浮かれていた。そこで偶然出会った女性が暮らすシェアハウスへと潜入捜査に。だが、何かがおかしい。好きな職業に就き、料理も片づけも得意な人当たりのいいこの人たちがシェアハウスで暮らす意味、どこにあるの?

 

第2話『リア充裁判』

弁護士を目指す姉に憧れる知子だったが、無作為に選ばれるリア充裁判にかけられた姉は、SNSなどをやっていないからとコミュニケーション能力がないと判定され、その後人が変わってしまう。やがて法学部に進んだ知子にもリア充裁判に召集される通知が届く。

大学生活三年間において飲み会もサークルの先輩の車で行くバーベキューも、キムチやチョコ等を入れるようなたこ焼きパーティーも行っていない。たとえ民間企業に入る予定がないとしても、「ひとりよがりで孤立している」コミュニケーション能力を強制すべきだと断定されてしまった。

第3話『立て! 金次郎』

幼稚園教諭の孝二郎は、すべての子を平等に1年間の行事それぞれで目立たせるという幼稚園の方針に疑問を覚えている。だが園は保護者対策に必死で、子どもは二の次のようだ。それでも保護者からのクレームはキリがない。二宮金次郎像は、薪を背負って歩きながら本を読むのは危険だからと座らされてしまった。

 

第4話『13.5文字しか集中できな』

ネットニュースを配信する部署でライターをする香織は、憧れの女性室長と同じように仕事ができる女性を目指している。短文で注目度を高めることに精を出す日々で、小学生の息子の夕食も夫に任せることが増えた。ゴシップに近いきわどい記事でアクセス数を伸ばしつつ、夫の浮気を疑いながら自分も元カレと食事に行く、なんて地に足のつかない日々に爆弾が投下される。

 

第5話『脇役バトルロワイアル』

ちょっと落ち目の青年俳優、淳平は、有名演出家の主役オーディションまでこぎつけた。しかしオーディション会場には、歳も性別もバラバラな俳優たち6人が集まっていて、オーディションはなかなか始まらない。やがてみなが気づく。脇役専門といった俳優ばかりが集まっていることに。いったいどうやって主役を決めるんだ?

「そのドラマでも、なんか主人公の学生時代の友達役みたいな感じで、飲み屋のシーンしかないんですよ、俺」

「あーでもなんかわかる」れいなもクスクス笑う。「勝地くんって確かに、あらゆる人の”学生時代の友人”って感じ」

その笑い方やめて、と、涼がおどけると、稽古場の空気がますます和らいだ。話をまわしつつ、笑われるポジションに自分の身を置き、硬くなりかけていた空気をほぐす――勉強になるな、と、淳平は思う。

まるで夢のなかにいるかのような現実とは違う空気感。だからこそ許される「奇妙」さ。ただただそれを楽しむための小説集だ。シリアスな部分に目を向けなくてもかまわない。オチのおもしろさだけを期待して読むのもいいだろう。

それにしても、朝井リョウの俯瞰力はすごい。

「*後ろから読むの禁止」に笑えますね。禁止ですよ~

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PROFILE

プロフィール
水月

随筆屋。

Webライター。

1962年東京生まれ。

2000年に山梨県北杜市に移住。

2012年から随筆をかき始める。

妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。



『地球の歩き方』北杜・山梨ブログ特派員

 

*このサイトの文章および写真を、無断で使用することを禁じます。

 

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