『そしてバトンは渡された』の本屋大賞受賞記念と称して、シミルボンサイトで瀬尾まいこの連載を始めた。これまで読んだ小説も読み直し紹介していこうと思う。
連載はこちら → 【瀬尾まいこ~本屋大賞受賞記念連載!】
『優しい音楽』は、3つの中編を収めた小説集だ。
表題作は、やわらかなラブストーリーである。
鈴木千波と永居タケルのふたりは、朝の混雑した駅で出会った。
タケルはまったく見覚えのない千波にじっと見つめられ、戸惑う。
「顔が見たいからって、知らない人に近づかれるとびびるよ。鈴木さんだって、知らない男にあなたの顔が見たいからって、毎朝近づかれたら怖いでしょ」
「そうですね。確かに怖い。私だったら警察に言うかも……」
鈴木さんはそう言って、くすっと笑った。
タケルは、腑に落ちないまま千波に恋をする。しかし、それを告げたときの千波の反応が、またおかしい。
鈴木さんは少しうつむいて、考えこんでいた。そして、顔を上げてきっぱりと言った。
「わかった。恋人になる」
「は?」
「永居さんと付き合うよ」
「それ、無理矢理みたい」
「無理矢理じゃないよ。永居さんと確実に一緒にいるにはそれがいいと思う」
けれど不自然だったのは最初の頃だけで、ふたりはどんどん恋人らしくなっていった。視点は、タケルと千波が入れ替わりながら進んでいく。以下千波視点。
体温とか匂いとか声の調子とか、背中とか手とか触り心地のいいほっぺたとか小さいことにこだわらない穏やかなところだとか、だらしないくせに電気とかガスとか几帳面に節約するところだとか。どれも好きでいる決定的な理由じゃないけど、そのどれもがとても自分に合っていて大好きだと思う。
そんなふたりにも、やがて転機が訪れる。タケルは腑に落ちなかった「理由」を知ってしまう。
テーマはとかいてしまうと野暮だが、人を好きになるのに理由なんていらないってこと。千波も、こう思う。
キスをしてセックスもして、身体も心もすっかりお互いに馴染んでしまうと、どこが好きだとか、どうして好きになったのかは忘れてしまう。
ほか2作も、くすりと笑えて、読んでいるうちに気持ちが解放されていく優しい物語だった。
『タイムラグ』
愛人の子どもを預かる羽目に陥った深雪は、持て余しつつも放っておけない。
『がらくた効果』
何でも拾ってくる同棲中のはな子が、おじさんを拾ってきた。
29歳になった娘が反抗期まっただなかだった中学生のとき、一緒に読みました。なつかしいな。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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