個人の財布からお金が出たり入ったりする話が大好物だ。
とは、山本文緒の解説から抜き出した言葉。
そうなのよ。と膝を打つ。
男と女の金の話って、いやいやなかなかにおもしろいのである。
シミルボンでも連載中だ。 → 【金と泪と男と女】
豆子32歳は、結婚を決めた。
だが、「おめでとう」と言われるのは嫌だった。逆に辛いとも思う。
おめでとうって言うな。豆子はずっと地味な人間として過ごしてきた。「可愛くて人に頼るのが上手い女性」の結婚と「地味で自立している女性」の結婚を一緒にしないで欲しい、と豆子は思う。
豆子は、「よかったね」ではなく「腹をくくって稼いでいけ」というエールの方を求めていた。
「社会貢献よ」
なにしろ結婚する理由が、これだ。社会を存続させるため子どもを産む。
「出た、似非モラリスト」
そう言ったのは、妹の星。
この小説の魅力のひとつは、豆子が仲良し四姉妹のひとりであることだ。
花(バツイチの派遣社員)35歳
豆子(芳香剤メイカー会社員)32歳
草子(実家暮らしのニート)27歳
星(専業主婦、夫は一流企業勤務)24歳
豆子は、金がないから結婚式はしないという鯛造に、自分が金を出すから式を挙げようと言う。ふたりとも30歳を過ぎているのだから親に金を出させることもしたくない。そう覚悟して式の準備を進めていたのだが、ことあるごとに(両親との会食など)金が失くなっていくことに恐怖を感じてしまう。
その嫌な感じは、金がなくなる怖さというよりも、金のなくし方を自分でコントロールできないという恐怖だった。
もしかしたら、と考える。
家族を支え、日々働いている家庭を持つ男性は、こういう感覚に陥ることが日常なのではないかと。
自分ひとりだったら、予測もつく。けれど家族が増えるにつれコントロールできない部分も増えていく。たとえば自分で買った覚えのない林檎が、テーブルの上で赤く光っている。
息子が2歳の頃、こんなことがあった。
日も暮れて、友達とバイバイした彼をひょいと抱き上げ、アパートの階段を上った。忙しくキッチンに立つと、息子は居間でおもちゃを出し始めたが、そのテーブルに、見覚えのない林檎があった。
朝、夫を送り出す時には、なかったものだ。
林檎を買ったのなんていつだったのか思い出せないくらい前のこと。これは、いったい? と首を傾げるが、息子は言葉が遅く、彼に聞いても埒はあかない。
「ああ、林檎。抱っこした時に、おててに持たせたのよ。おすそわけ」
何のことはない。翌日、隣人の種あかしを聞き謎は解けた。
その時に、思ったのだ。
「家族が増えるって、こういうことなのかも知れないなぁ」と。
ひとり暮らしをしていた頃は、小さな部屋の隅々まで、すべてを把握することができた。荷物も少なかった。結婚してふたりになり、荷物はそう多くはなかったが、すべてを把握することはできなくなった。そして、子どもが生まれ、こうして部屋のなかに自分の知らないことが、ひとつ、またひとつと増えていくのだと。それが、家族になるっていうことなのだ。
豆子、がんばれ、と思う。
婚活中は「虫に負けた」「命も短いのに相手を見つけて繁殖する、よく出会えるな、本当にすごい」とベランダの毛虫を見つめ、震災が起こったときには惜しいとも思わずに40万円の寄付をしたが、実際には旅をしてその土地のよさを見つけることが大切なのだと知ろうとする。
そんなふうにまじめに考えて考えてがんばるきみは、可愛くないなんてとんでもない。とてもとてもチャーミングだよ、と。
もう少しやわらかな色合いなんですが、写真に撮ると出ませんでした。写真に撮っても見えない色があるように、人は見えない側面だらけかも。
結婚観。「おめでとう」と言われるのが嫌だった。
それ、わかります。私もそうでしたし、のちに高校時代の友人の結婚パーティに行ったときに、その友人が「あんまり嬉しくないねん。周りが言うほど嬉しくないねん」と言いました。私も同意。両端にいた子たちも同意。「そんなもんやね~」
なんだか、ほっとしました。でもみんな、今も幸せな結婚生活を送っています。
不安の方が大きいのでしょうかね。それほどおめでたい事でもないと、当事者は思うものなのでしょうね。
男はもっとそうなのかも知れませんね。背負うものが違うのでしょうね。
そういう責任感を持つことは、いいことですが、それほど重荷に感じなくても・・って。
してしまったら、どうにかなる!って、母(私)はリアルに思うんですけどね・・(笑)
ナオコーラさんはとても正直な事を書いてくれましたね。
夫は結婚する時『嬉しいけど、決意みたいなもののほうが大きいんだ』といいいました。
それが私もそうだったので『そうだよね』と心から相槌を打ちました。
きれいごとではないですね、夫と結婚するということはその家族も漏れなくついてくるし。
林檎の話、うなづきながら読ませていただきました。
お金の使い方もそれぞれですね。
家計を預かっている私も大変だけど、働いたお金をほとんど妻の私に委ねなければならない夫のほうが大変かもしれません。
だから結婚するって『これから大変な世界に突入するんだ!』といっても過言ではない気がするのです。
でもそういうことばかり言うとだんだん若い人が結婚しなくなるからいけませんね。
成り行きで結婚するのもいいと思います。
それからあとが大変だということはしっかりと味わっていけばいいのです。
何とかなるものですね。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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