本との出会いというのは、不思議なものだ。
興味がないわけじゃないのに、いやじつは気になっているにもかかわらず、手にとることなく過ごしてしまう本というのがある。
『君の膵臓をたべたい』も『君たちはどう生きるか』も、手にとらないまま敬遠し続けてきたが、ひとつには「売れすぎているから」という理由がある。(この、ひねくれもの~!)
だからやはり、同じように敬遠していた。
芸人が描いたという漫画『大家さんと僕』である。
おばあさんの大家さん(87歳)と、芸人の僕(39歳)がひとつ屋根の下で暮らし、心を通わせていくストーリーだ。
ところがこの本のワンシーンを、意外な場所で目にすることとなった。
取材先のオリジナルキャンドル専門店『nature ground』で、大家さんが大切にしていたもののページにキャンドルがあり、それは、著者が『nature ground』のワークショップで手作りしたものだという。シンプルな線画で描かれた単純にも見える蝋燭の絵。それが手作りのキャンドルだとは。
そう思って見ると、シンプルな絵ひとつひとつに深みが出て、描かれていないところまで見えてくるような気がするから不思議だ。
読み終えた『大家さんと僕』には、そのシーンは出てこなかった。まだ単行本になっていない連載中の雑誌に載っていた分だ。なので、ぜひ続きも読みたい。
「大家さんは、亡くなられたそうです」
読む前に、キャンドルの香りのなかでそう訊いたのだが。
好きだったのは、大家さんが初恋の人に会ったと僕に話すシーン。昔、告白できていたらと振り返る大家さんとの会話だ。
「もっとスレたかったわ」
「今からスレてもいいんじゃないですか。そうですよ! お食事も行くんだし!」
「今から? そうね。87歳の夏は、今しかないのですものね」
「いいですねーそれ! 僕も! 39歳の夏は今しかない! スレます!」
大家さんと一緒に歩くとき、風にもっていかれないよう、転ばないよう、手をつなぐ僕はとても素敵だ。
「手をつなぐのなんて久しぶり…ほほほ」
(大家さん 僕も…でした)
『手塚治虫文化賞短編賞』受賞作なんですね。
ごめんなさい。ほとんどお笑いもバラエティも観ないので「カラテカ」知りませんでした。自分が大家さんに近い感覚なんじゃないかと思うことも(笑)
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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